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‥閑話休題‥

 

side村瀬

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12月第3火曜日

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 今日は月イチの委員会。

 

 だりィ。

 

 マジだりィ。

 

 生徒会長とかなるんじゃなかった。

 

 放課後になって生徒会室に行ったら思った通り、もぬけの殻だもんよ。

 

 まただよ、誰も来てねーし。

 

 俺も会長になれば、前会長みてーにモテまくるとか思ったのが甘かった。

 

 そのうち委員が集合するだろと思って、俺は机の上に両脚を投げ出す。

 

 そうやって寝不足の体を休ませようとしたとき、勢いよく扉が開いて、保健の先生が入ってきた。

 

 うげ、宮城先生だよ……。

 

「よォ村瀬。ヒマそうだな、この野郎」

 

「あ。ちース」

 

「ちースじゃねーよ、それが人に挨拶する態度か。あぁ? テメーも偉くなったもんだな」

 

 そうやって宮城先生こそズカズカと大股開きでやって来て、俺が座ってる椅子をガンとか蹴り飛ばすから。

 

「うっわ、危ねっ!」

 

 椅子ごと床に倒れそうになって、慌てて体勢を整えたからよかったけど。

 

 教師っつか、ヤクザかよって話だよ。

 

 で、何しに来たんだこの人。

 

「村瀬。この前はよくも俺に嘘をつきやがったな、この見栄っ張り童貞野郎が」

 

 ……あー、やっぱそのことか。

 

 教師のくせにパーマかけて白衣の下にホストみてーな格好で、女子にキャーキャー騒がれてて腹立つし。

 

 ミスコンで惜しくも優勝を逃したほどの1年美少女を、最近までずっと保健室に囲ってたし。

 

 なんか色々くやしかったから、『意外でしたよ。彼女、すげー濡れるんですね』って言ってやったアレだな。

 

「あんなのにだまされる方が悪いんス。つーか俺はこれでも童貞卒業してますよ!」

 

「うるせェ。お前なんざ一生、美穂童貞だろが」

 

 ……失恋したての傷に塩をすりこみに来たのかよ、この人は!

 

 おかげで俺は寝不足なのに、何の同情もねーよ、くそっ……

 

 こっちだって言われっぱなしなわけにはいかねー。

 

「それって、宮城先生は美穂童貞じゃないってことっすか」

 

「くはは。さぁーなー。お前には関係ねェよ」

 

 うわー、否定どころか超満面の笑みだよ。

 

 先生のくせに生徒食ったとかとんでもねーのに、口止めするのかと思いきや当てつけだよ。

 

「ったく、ちょっとは隠してくださいよ! 俺がバラしたらどうすんですか!」

 

「あー? その時は、……テメーをバラす」

 

「お、俺をバラす!?」

 

 途端に声を低くして、眼鏡の奥から鋭い目で俺を脅すし。

 

 黙っててくれとかそんなんじゃねーもんよ、俺の体をバラバラにするってことかよ。

 

 ヤクザっつか、鬼畜かよって話だよ。

 

 マジ勘弁してくれって時に他の生徒が来たから、俺はほっとして一息ついた。

 

 それはもう宮城先生がその話題に触れないって思ったからだったけど、最後に念押しがあった。

 

「村瀬。黒猫の世話、頼んだからな」

 

「黒猫? ああー…分かってますって」

 

 誰のことかは、すぐ分かった。

 

 あの長い黒髪っていうより、人を寄せ付けないオーラと、そのくせ人をじっと見る大きな目は、何だか猫っぽい。

 

 言われなくても、俺には飼い慣らせなくても、俺は猫派だから見捨てることはできねー。

 

「黒猫? 黒猫って何なに、ねぇ何なのー!?」

 

 生徒会室を去っていく宮城先生と俺を見比べながら、副委員長が猫の話に食いついてきた。

 

 今年のミスコンで優勝したのはこのモデル体系の副会長で、バカっぽいとこさえなければモテるはずなんだけど。

 

「黒猫はあれだよ、保健室になついたノラ」

 

「へー、いいなー。でもでも宮城先生って、なんであんなに偉そうでいられるのー? 一体何様なのー?」

 

 言いながら口をとがらせる副会長は、前会長のファンだったから、いまだに宮城先生をよく思ってないらしい。

 

 あの人、教師のくせにミスターコンテストに乱入して、毎年優勝してた前会長からその座を奪ったからなぁ……。

 

「けど、あの先生もアレでかわいーとこあるけどな」

 

「か、かわいい!? かわいいの!? どこどこ、どこへんがー!?」

 

「言えねーや。バラされるから」

 

「バラされる!?!? 何の弱み握られてるのー!!」

 

 そう言われて笑って誤魔化すと、俺が伏せておきたいことに、副会長はそれ以上突っ込んでこなかった。

 

 宮城先生はどーでもいいけど、白鳥美穂の悲しむ顔は見たくなかったから、黙ってるだけなんだけど。

 

 コイツはコイツで、案外、話が分かるとこあるんだよな。

 

 って思ったら、次に考えていたことは、じゃあ俺って副会長にどう思われてるかってことだった。

 

 あれ。

 

 俺ってもしかして、面食いの上に惚れっぽいかな……。

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