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愛情の情愛
何と呼ぶ?
何と称する?
呼称するな故障する精神


 恋愛は、『起承転結』でいうところの「起」が一番楽しい。

 恋を決[起]させ、勃[起]して淫事を[起]こす段階。

 美味しいところだけを、つまみ食いするくらいで丁度いい。

 互いを[承]知しあえば、いつかは何かに[転]倒する。

 そして迎える[結]末。

 幸福な[結]婚なんてのも、性春を謳歌していたい宮城には、選択肢に入れたくもない[結]果だ。


 過去にトラウマがあったとか、本命がいるわけではない。

 ただ面倒なだけだ。

 傷付くのも嫌だし、縛られるのも嫌だし。

 今が楽しければそれでいい。

 『将来への保険になる恋愛』など、自分には必要ない。


 それが大人の信条たる、宮城の心情。


 ――しかし、そんなくだらない信条など、いずれは『何か』に[転]倒する。 

【recollect】

 


「人間って、なんで生まれてきたのかな。なんのために生きてくのかな」

「あぁ?」


 まだ、夏の初め。

“先生”と“生徒”でいた頃。


 青い空に流れる、白い雲。

 雲は様々な形に変化する。

 風の強い日は、雲が校舎の向こうへと流れていくと、見ようによってはまるで校舎がこちらにゆっくり倒れてくるように…見えなくもない、と言う美穂。

 ベンチに座り、それを眺めるのが彼女のお気に入りらしい。変な女だ。


「宮城先生は、そういうこと考えたことない?」

「あるさ。なんでチン毛生えてくるんだ、とかな」

「毛……っちがうよ、そんな話してないよ!」


 思春期の生徒・美穂は、何やら生きる意義についてお考えらしい。

 “生”より“性”に興味を持つ保健教諭・宮城の答えは、以下のようになる。


「やっぱアレだろ。生物は遺伝子の命令によってSEXし、種バラまいて“種”残すってのが使命だろ」

「は?」

「だから男は色んな女とヤりたい生殖本能があんだよ」

「…それ、宮城先生のエロさの言い訳でしょ」


 サボリ魔の生徒が保健教諭と話すようになって、一週間。

 数回も会って話せば、彼の下半身が万年思春期だということはすぐに分かる。


「つーかさァ。オマエは生きることに、そんな壮大なテーマ求めてんの?」

「求めてるっていうか…。なんか、意味あるのかなって…」


 ‥そんなもん、
 答えなんか 
 なくね?


 確かに無意義に生きるより、有意義に越したことはない。

 熱血教師であれば、生徒が夢を持つことに賛同して励ますだろう。

 しかし残念なことに宮城は違う。


「そーゆー大義名分見つけたら、オマエ高1にしてそれに見合う立派な生き方できるのか。大したもんだ」

「べ、別に、そーゆーんじゃ…」

「生きる意味なんてなー。思考能力持った人間の後付け理想論だ。個々の小さい生物が何を考えよーが、結果として“種”を残すための壮大な歴史に加担させられる一片でしかない。しかも個人単位でみるにしても、それは生きがいとか夢を見つけた人間が自分なりの答えを出せることであってだな、生きる意味とか人それぞれ、…オイどこ行く。聞けよ」

「…もういい。ウザイ」


 口下手な女は、口達者な男に話題をふったことを後悔しベンチから立ち上がった。

 正論という屁理屈など、頭に来るだけだ。


「先生って、冷めてるね」

「そーか? オマエと熱の入れどこが違うだけだろ。俺は女に熱を挿れたい」

「…勝手にいれなよ。でも私はやっぱり何か、答えがほしいよ。だってそうじゃなきゃ、私がなんでここにいるか、わかんない」

「……」


 つまり美穂は、自分という存在の証明、支えになる答えが欲しいわけか。

 しかしその問いに対し、答えを出すのは誰だって難しい。


 “きっと、それを探すことこそ人生”


 …などと宮城が口にすると、ただの綺麗ごとになりそうだ。やめておこう。


「やめておこう。…よし! じゃ俺にしろ」

「は?」

「俺のために生きろ」

「バカじゃないの? なに言ってんの?」

「オマエはいい女だ。あと4、5年もしたら…」

「……したら?」

「挿れさせろ」

「はぁー!? やだよ、いれさせないし!!」


 宮城の(半分本気の)くだらない冗談に対し、白い歯を見せ笑う美穂。

 今は不器用な生き方をしている彼女だが、探すことを諦めなければ、いつか彼女なりの答えを手にする時も来るだろう。

 子供には将来がある。

 夢も希望も、いくらでも持てる。


「宮城先生、ほんとエロが生きがいでしょ」

「それ以外に何かあんのか?」

「さいあくな大人だね!! じゃあ、私見つけたら教えてあげるよ」

「あぁ?」


 タバコを吸おうと、ベンチに腰掛ける宮城。

 背中に立つ美穂の言葉に、首を後ろに倒す。


「宮城先生に生きる意味を、私が教えてあげるっていってんの!」


 青い空に流れる、白い雲。

 雲が美穂の向こうへと流れていくと、黒髪をなびかせ微笑んだ美穂がまるで、ゆっくりとこちらにキスをしようと迫るように……見えた。


「おまっ……オイ、それ意味とか深く考えずに言ってんだろ!」

「は? なに、深い意味って」


 一体、何をどうとらえたのか。

 くわえたタバコを落とした宮城に、美穂は首を傾げる。

 幼い少女の戯言に驚かされた宮城は、そんな自分を鼻で笑った。


 ‥コドモはスゲーな
 無知ゆえに
 無謀なことを口走る


 それはいつか、生きる意味、その答えの先にいる、人生の伴侶になる男に言ってやればいい。


「…オマエ、ずっとそのままでいろよ」

「あ。いま、私のことバカにしたでしょ」

「バカになんかしてないさ」


 本当の答えなど誰にも分からないと、諦めて大人ぶる俺よりずっといい。

 探究心を隠した美穂は、諦めたふりをしている子供だ。


 夏が過ぎ。

 季節を重ね、体を重ね。

 ――結局、宮城という“男”が教えたことといえば、美穂に対して“女”の悦びだけ。

 …だったのだろうか。

【chapter03】――――――――――――――――――――――――――

 

「白鳥美穂のお姉さんて、生徒会長と付き合ってるんだって」

「あ、それ知ってる」

「えー! てかその2人が姉妹ってことにビックリ!!」

「そーいえば名字一緒だし!」


 ――噂。

 それは時として情報交換。


「それで? 似てんの?」

「お姉さんはいい人だよね。私、視聴覚室の場所聞いたら一緒に連れてってくれたし」

「ちっちゃいし可愛いし、うちらから見ても守りたくなるタイプ」

「へぇー、全然ちがうね」


 それは時として、“彼女”にまつわる話。


「なのに妹の方って。超無愛想だし。超遊んでるらしーし」

「美人はいーよね、黙っててもモテて。絶対いい気になってるけど」

「ねぇ先生ー、保健室入りにくいから、今度きたら追い出してよ」

「宮城先生だって、あんな子に寄り付かれて迷惑でしょ~?」


 それは時として、…ただの陰口だ。

 噂話には妬み、悪意、または各々のコンプレックスも含まれるようだ。

 誰かを卑下し悪者にすることで、自分のストレスや弱点を補完するのだろうか。

 面白がって騒ぐことで、知らずに誰かを傷付けているというのに。


「…オマエらな、井戸端会議でご近所トラブル起こすババァじゃねんだから」

「あはは、なにそれ~」

「人の悪口を平気でしゃべる女はモテねーぞ」

「だって、ムカつくしー」

「つーか、美人で遊んでるとか…サカってる高校生男子にゃたまんねーよなァ。そんな噂広まったら、さらにモテるだろーな白鳥の美穂は」

「え、そ…そーなのっ!?」

「男子最悪~! そーいえば、こないだ条之内くんなんか、3股かけてたらしいよ」

「何なのアイツ、なんでそんなモテんのー?」


 保健医の一言で、女子生徒たちの話題は『男の浮気について』に移った。

 もちろん軽い男子ばかりではないが、噂好きの彼女達の餌食にかかれば、『条之内くん』が浮気者だということは、近日中には周知の事実になるだろう。

 宮城は『条之内くん』に同情しながらその場を後にした。


「宮城せんせー」


 ‥いや
 『条之内くん』て
 誰だよ

 


「宮城せんせぇっ!」

「――っうぉ!!」


 背後から細い腕が、白衣の腕に絡んで飛びついてきた。

 黒髪をなびかせ、噂の渦中にいる人物が現れる。

 まだ人目の多い廊下で、昼休みで。

 ただでさえ目立つ宮城と美穂の接触に、周りの生徒もざわめく。


「ちょっ、…何すんだオマエ、いきなり触んな!」

「えっ…」


 振り払われた手拒絶を示されたようで、美穂は傷付いた表情を浮かべた。

 だが宮城は白衣を正すと、彼らしくもなく周囲を気にして背を向けた。


「いや、あのなァ…びっくりするだろが」

「…は?」

「急に声かけるな、腕組むな。心臓に悪い」

「はぁ…」


 大声で人を引き止めたり、人前で手を握ったりするセクハラ教師が、よく言う。


「…宮城先生。さっき、ありがと」

「あ? なにが」

「ウワサ話から私のこと、かばってくれたでしょ」

「あー。あいつら、話長いから切り上げただけだ」

「…ふーん」


 例え宮城にとってはそうだとしても。

 ちょうどあの場を目にしていた美穂には、陰口の制止は結果として救われた。

 だから感謝を述べたのに。

 宮城はいつもに増して、ぶっきらぼうな態度だった。

 足早に階段へと向かうので、美穂も走って後ろをついていく。


「…美穂、なんでついてくる」

「え? だめ?」

「授業出ろ。特に数学ばっかフケやがって、また俺が田村先生にグチられる」

「だれ田村って。次、英語だもん」

「美穂の数学担当教師だろが! いーから教室戻れや、昼休み終わるぞ!」

「まってよ、なんで逃げるの宮城先生」

「…俺が逃げてる、だとォ?」


 睨みをきかせ、宮城は眼鏡の奥からギロリと美穂を捉える。

 怒らせたのかと美穂が怯むと、宮城は何も言わずに白衣を翻し、階段を降りる。


「なに…なんなの、何怒ってんの?」

「…別に怒ってねーよ。オマエこそ何だよ何か用かよ」

「宮城先生がヘンだから、気になるじゃん」


 ――誰がヘンだボケ。

 という返しを待った美穂に。


「…気になる? オマエが、……俺をか?」


 足を止め、振り返らずに問う宮城。


「え? あ、うん、だから…」


 しかし美穂の返答を待たず、宮城は再び保健室へと向かった。

 到着すると入口に立ち、ポケットからキーケースを取り出すも、一度落として拾い上げる。

 そして鍵を開けようとするが、なかなか開かない。

 どうやら違う鍵を挿していたらしく、舌打ちをして鍵を選び直し、やっとドアを開けて中へと入った。


 ……どうも様子がおかしい。

 いつも堂々とした態度でふんぞり返っている男が、今日はどこか落ち着きがない。


「ねぇ…どーしたの、なんかあったの? 宮城先生」


 椅子に腰掛けた宮城を、美穂が斜め後ろから覗き込むと、宮城はあからさまに美穂から目を逸らした。


「ちょっと…」

「いや、…オマエ近すぎ」

「は?」

「寄るな」

「よっ…」


 椅子から立ち上がり、美穂から離れて窓際に立つ宮城。

 タバコを一本取り出すもまた床に落とし、息を吹きかけて使用しようにも、今度はライターがなかなか点火しない。

 宮城の挙動不審さと言動の失礼さに、美穂は不快さを覚えた。

 しかし宮城自身、己の不可解さに戸惑っていた。


 ‥やべェ。


 タバコを吸えば気を鎮められると思ったが、度は静り返った二人きりの空間が異様に気まずく感じられ、間がもたない。

 


 ‥何だこれ
 美穂の目、見れねェ
 何だ何だこれ 

 宮城は自分に対し、少しの猜疑心を抱いた。

 


 守りに入ってる?
 攻めの俺がこんなガキ、小娘相手に
 この俺様が?


 いやいや…
 いやいやいやいや
 ない。それは、ない

 


「…おい。チャイム鳴ってんぞ」

「うん」

「授業出ねーのかよ」

「うん。だから」


 5時間目の授業のチャイムがうるさく鳴り響く。

 つまりあと50分は、美穂がここにとどまるということだ。

 ――50分間も。

 二人だけのこの空間で、一体何をしろと?

 今まで何をしていたんだった? ああ、ナニか。


「ねぇ。宮城先生」


 居づらいとか気まずいとか、この空気を美穂側は少しくらい感じていないのだろうか?

 

 …いや、いい。

 そこは何も感じ取らなくていい。そもそも、むしろ、なぜ宮城が美穂を意識しなくてはいけないのか。


「宮城先生ってば」


 ‥何だよ
 俺に何の用だよ


「あのさ…」


 何だ何だ
 この俺に一体
 何の用で来たんだ


「今日はエッチ、しないの?」


 ‥‥‥‥


 ‥要は、
 それだけか


「…はぁー…。オマエの頭ん中、それしかねーの?」

「な、なっ…!」


 肩を落とし、溜め息を吐く宮城に。

 美穂は口をパクパクとさせ、あきれてものも言えなくなった。


 自分こそ年中無休で発情期のくせに、歩く生殖器のせに女の敵のくせに。


 美穂が保健室に来るということは、今はもう、別の意味も含まれている。

 『いつでも来い』――あの時の宮城の言葉は、手を出されてもいいなら来いということ。

 つまり美穂はそれを承知した上で、…抱かれるために保健室に来たということ。

 なのにルールを設けた宮城自身がそれを非難するなんて、一体他の、何の用事で来いというのか。


「…オイ美穂」


 美穂が向きを変えてドアへと向かったので、宮城はもう一度名前を呼ぶことにした。


「美穂」


 二度呼んでも振り向かないまま美穂が保健室をあとにしたので、宮城も後を追って廊下に出た。追いかけて肩を掴んで振り向かせると、美穂の強気な瞳は潤んでいて、唇を結んで宮城を睨みつけた。


「宮城先生の、バカッ」

「なんだとォ?」

「私、保健室に来にくくなった気がして……けど宮城先生なら、またいつもみたいに笑ってむかえてくれるって思ったのに…っ!」


 嘆きのような訴えに、宮城は唐突に気付いた。

 多少の動揺などあっても、いつもと変わらない自分の振舞いを演じるべきだった、と。

 美穂は男女の仲になった宮城に、平然としていられるほどクールではなく。

 精一杯の強がりで、気にしない素振りをしてみせていただけなのに。


「あんな態度、傷つくよ…」

「…あー…」

「…ううん、いい。私が宮城先生に、頼りすぎだったんだ…」

「……あ~…いや、待て、…そうじゃない」


 宮城は茶髪のクセ毛頭をかきむしり、何かもっともらしい弁解をしようして美穂を指差し、やめた。

 …こんなガキ、小娘相手に。

 だが目の前にいるのは、いち個人。

 年の差はあろうが、意思を持った一人の人間。

 先生と生徒は対等でなくても、人としての扱いは大人も子供も平等であるべきだ。

 自分こそ高校の時はそうだった。

 一人前を気取り、怖いもの知らずで、子供だとバカにして取り合わない大人が憎く、ああはならないと誓った。

 それが教師側の立場になり、いつのまにか自分の嫌っていたタイプの大人になっている。

 強そうに見えて弱く、繊細な心の持ち主に対し、無神経な振る舞いで悲しませる気はなかったのに。


「…悪かった、美穂」


 大の男が、美穂に謝った。

 うなだれて目線を落とし、不器用な謝り方をしているが、彼なりの誠意だろう。

 あまりにらしくもない、廊下に立ち尽くすその男が(口にしたら怒られそうだが)、かわいらしくさえ思える。

 それに免じて美穂は、白衣の胸板に手を置いて爪先立ちをし、そっとキスをすることで許しを示した。

 唇を離すと、宮城はやっと真っ直ぐに美穂を見た。

 真剣な眼差しに、美穂も目をそらさず視線を返す。


「…宮城先生…やっぱり今日は、やめよっか…」

「ハハ…バーカ」


 美穂の背に手を回し、膝を肘に抱え、いわゆるお姫様だっこで彼女を抱える宮城。


「わっ…!」

「今ヤる気んなった。保健室戻るぞ」


 眼鏡の奥からニヤリと笑う強気な瞳に捉えられ、どこでスイッチが切り替わったのかと、美穂は唖然としつつ。

 こういうのも悪くはないと、宮城の首に腕を回して抱きついた。

 軽い質量の、重い存在感のお嬢様。

 宮城は美穂を二人のベッドへと運ぶ。


「たまには場所変えたいなァ。美穂の教室とか」

「やっ…やだよ、絶対やだ!」

「ハハ。そのうちいい場所探しとく」

「…いいよ、保健室で…」


 『先生』であり、職務に従い『生徒』を指導する。

 それは仕事。

 『男』であり、本能に従い『女』に淫蕩する。

 これは私事。


 会いに来るなら、愛に恋。

 軽はずみな行為から、愚かな好意は生じるのだ。

 

 


 窓の外では、天から地に到達する小さな雫たちの音が静かに鳴っていた。

 …雨音がするのに『静か』とはどういうことだ。それだけ、キスに集中していたということか。

 いつもなら、まぶたを降ろした女のまつ毛を眺めていた宮城だが、いまは目を閉じていた。

 見ることより、味わうことに専念するために。


「んっ……ふ、…ぁっ……」


 至妙な舌の運びに応じようと、美穂の不器用な舌は必死に絡み付いてくる。

 何ともいじらしいが、焦らずともリードされるがままいればいい。

 唇で唇を挟み、絡ませた舌を歯で軽く噛んで捉え、舌先で弄ぶ。

 ひるんで後退する背中を片手できつく抱き締め、ベッドに座らせた美穂の上履きを脱がせる。


「…ァ、っ……」


 キスをしたまま相手をゆっくり押し倒す。

 手であごを浮かせて舌を絡ませながら、美穂の手に指を絡ませる。

 熱情的な口付けは、互いの呼吸と体温を上げていく。

 テンポとテンションもアゲていく。


「ぁっ…はぁ、は……っ…」


 透明の糸を引いて唇を離すと、息を荒らした美穂が宮城の手を強く握っていたことに気付き、力を抜いて息を整えようとした。


 ‥なぜ取り繕う


「美穂、キスだけで濡れたんじゃねーの?」

「…は!?」

「色っぽい顔になってるってことだ」

「っ…だって、宮城先生…キス、うますぎ…」

「ハハッ。ま、俺はキスで勃起したけどな」

「え…っ……ゎ、…私も……ぬれた、みたい…」


 宮城の言葉に、美穂も顔を紅潮させながら自分の痴態を打ち明けた。

 そう。そこは素直に言えばいい。

 たかがキス。だが相手を舌に感じて、欲望を下で感じる。

 感興して、興奮するのが性。

 双方同じなら相乗効果も上がる。


 隠すな
 取り繕うな
 もっと見せろ


「これからさらに濡らしてヤるからな。その前に下着脱いどけ」

「っ……じゃあ、ぬがしてよ」


 負けじと大きな黒い瞳で宮城を見つめる、制服に身を包んだ黒髪の小悪魔。


 ‥魔性の女かオマエは


 生意気な色気に押される前に、化けの皮を剥いでやろう。

 ニヤリと半笑いにスカートを捲くり下着に手をかけ、一気に脱がしてやる。

 濡れ具合を確かめようとそれを見ると、美穂は急いで自分の下着を奪い取った。

 怒ったような赤い顔は、恥じらいからか唇を尖らせている。

 何ともかわいい悪魔だ。


「ていうか、なんでパンツだけ脱がすのっ」

「だから、『さらに濡らしてヤる前に』って言ったろ」

「っ…」


 制服の上から美穂の胸を掴み、宮城はまた美穂にキスをした。

 触れ合う唇の心地良さを求め、今度はゆっくりと穏やかなキスを。

 そしてブレザーを脱がせてブラウスに手をかけた。

 すると美穂も宮城に手を伸ばしてネクタイを解き、白衣の下のシャツのボタンを外しにかかった。

 そのうち、目を閉じ舌を絡ませているのに美穂が微笑んでいるのがわかった。

 それは宮城が笑みを浮かべていたのに美穂が気付いたからで、2人で笑いながらキスを楽しんだ。

 柔らかい唇の温もりを感じながら、互いの吐息を混ぜ合わせる。

 雨の音など、もう宮城の耳には届いていなかった。

 快感を得るためだけに体を重ねるのもいい。

 だが今は、美穂という確かな存在を実感するために、唇を重ねていたい。


 …無論、体もこれから重ねるが。


 ふっくらとして温かく、柔らかな美穂の唇からそれが離せない。

 離れたあとも、代役に自分の指を起用してキスを続けさせる。


「ぁっ…は、っ……んぁっ…」


 舌に指を絡めながら、もう片手では艶を帯びた黒髪を撫でる。

 そして首筋を舌でたどり、甘噛みをしては透き通るような肌に赤い軌跡を残していく。

 邪魔な制服と下着を剥ぎ、張りのある弾力をまさぐる手は延々と豊かなバストを揉みしだく。

 白い丘の上まで舌を運び、頂上にディープなキスをして欲火の紅へと色づかせる。


「んっ…ぁ、あぁァっ…、ふぁっ、あ…っ!」

「相変わらず、ずいぶんいい反応だな。乳首がビンビンになってる」

「や、だっ…て、…ぁ、ぁああっ…!」


 快感に身じろぎさせておきながら言葉でなじり、その姿を楽しむ。

 ――この行為は、宮城の性欲発散のための前戯、などではない。

 美穂を形作る肉体を、味わい愛でるためのものだ。


「あっ……は、ぁあ…っ、…んぁああっ…! 宮城せ…、せんせぇえっ……ァ、いたっ!」


 ゴン、と鈍い音を鳴らして白い鉄の格子を震わせ、頭を押さえる美穂。

 短く息を吐く宮城にあきれられたかと思ったが、彼は可笑しそうに小さく笑っていた。


「……美穂、あのな。何でベッドに頭ぶつけるかわかるか?」

「だっ、て…」

「オマエがよがりまくって上に移動するからだろ。M字開脚で爪先立ちして、自分の体を固定させみろ」

「は!? そんな、カッコ…っ」

「そーやって足全開にして、濡れ濡れの恥ずかしーとこ俺に見せろよ」

「…や、っ…やだ、そん…」

「いーから早くしろって」

「~~っ」


 『無理矢理されるから仕方なく』、という名目に甘えてるだけのマグロ女になってんじゃねーよ。

 欲望に正直に、大胆かつ淫奔になれ。

 だが女としての恥じらいも忘れるな。

 上手に男を手玉に取り、誘惑してみせろ。


「……こ、こう…っ?」

「オイオイ、そんなんじゃ全然見えねェよ。もっとだ。もっと足開け」

「~~…っ!」


 眼鏡越しの視線を意識しながらも、ぎゅっと目を閉じ宮城へと開脚する美穂。

 小刻みに震える白い太腿の付け根には、美穂の下心の集積が溢れて伝い、シーツにゆっくりと落下する。


「フッ。もうかなり濡れてるな。そんなにイジってほしーなら、今度は腰浮かせてみろよ」

「…な、…っ…!」

「感じさせてほしーんだろ」

「っ…」


 瞳を伏せて迷いをみせ、美穂はためらいがちにベッドに手をつく。

 …それは体を支えるためで、宮城の言葉に従うためで、腰を浮かせて恥部への愛撫をねだるため。


「ふはっ。マジでやってるし。やらしー女だな、そんなに触って舐めてほしーか」

「や…っいじわる いわないで、宮城せんせぇえ…っ」


 眺めているとまた新たな蜜が生みだされ、透明な糸を引いて滴り落ちていく。

 妖艶に濡れ咲く花びらを指でなぞる。

 体の力が抜けたのを見て、両肩に太ももを乗せてさらに腰を浮かせる。


「ア…ッ! や、こんなかっこっ…、ふぁ、ぁっ…!!」


 淫唇を指で広げ、もったいつけて目で犯す。

 充分に視姦しながらチラリと美穂を見やる。

 痴態に臆しながらも物欲しそうに潤んだ瞳に、宮城は再び難癖をつける余地を見つける。


「なぁ。どこをどーしてほしい?」

「どこっ、て…。…そ こっ…」

「そこ?」

「……だから、…、す」

「あ?」

「私のっ…ク、リトリ ス…っ」

「美穂のいやらしークリトリスがどーした」

「っ……美穂の、… やらし…い、…クリ トリス…っ…を、……きもちよく、して…ほしい…っ」

「言ってるそばからまた濡れてくるな…。ほんとエロいな美穂は」

「なっ…、もぉ、……はやく、ぅうっ……!」


 顔を近付け覗き込む宮城に、泣きながら哀願する愛玩。

 煩悩の前に美穂は意地など維持できず、簡単に折れて宮城の言いなりになる。

 
 ――この行為は、美穂を羞辱するための侮辱、ではない。

 強欲に煽り、求めさせるためのものだ。

 …ナニを? 誰を?

 それはもちろん美穂に“男”を求めさせるための、……いや…違うな。


 正しくは
 “俺”を求めさせる
 ためのものだ


「フッ…」


 ……なんてな、どうかしてる。


 人間関係は、感情の結びつきの上に共立する絆。

 肉体関係は、痴情の絡みつきの下に成立する縁。


 肉欲で誰かを征服することなど、出来はしない。

 だが、…それならなぜ美穂を手に入れたいという支配欲に、それこそ支配されるのか。

 ――いや。そんな感情論などどうでもいい。

 特に何と称するものでもない。

 滑稽でコケティッシュな魅力への情緒など、射精した性欲と一緒にティッシュに丸めて捨てればいい。

 目の前には、美穂の欲望が抽出させる濃厚な蜜がある。

 ただそれだけがリアル。

 宮城は美穂の両膝裏をつかみ、華奢な体を二つに折りたたむようにして、脚を上半身に押し付け恥部を持ち上げた状態にさせる。

 いわゆるマングリ返しだ。


「やっ…! いや、やだっ…こんなの、やぁあ…!」

「ほら、美穂のここ。見ろよ、すげー濡れてるだろ」

「いやぁあ…っや めて、みないで…っ…」

「俺が抑えてると手がふさがるから、美穂テメーの足テメーで持ってろ」

「っ…!? そんな、のっ…」

「舐めて触って欲しいんだろ。早く持てよ」

「~~っ…!」


 恥ずかしい行為にいくら従っても、この上さらに恥ずかしい要求に応じなければいけない。

 だが繰り返される羞恥遊戯に、美穂は逆らっても無駄と悟ったのか、それとも…よほど愛撫が待ちきれないのか。

 泣き震えながらも広げさせられた脚の膝裏を抱え、美穂は美穂の全てを宮城の前に展開させる。


「ハハ! オマエもほんと、たいがい素直に聞くよなー。エロすぎだっつの」

「…宮城…先生…、み てないで、…はやくぅう…っ…!」


 校内でも、いや宮城が今まで見てきた女の中でも最高の美貌と魅力を持ち、高校生という瑞々しくも可憐な少女が…。

 大きく開いた白く細い脚を自分で支え持ち、欲望に充血して赤く濡れた秘所を晒して、疼く淫欲に逆らえず宮城を招くのだから。


 無様なもんだな 
 美穂


 そしてそんな姿に、こちらの情欲を奮起させられるのだから。


 愚の骨頂だな
 ‥‥俺。


 このまま言葉だけで弄び続けていたいくらいだが。

 そろそろ彼女の努力に、褒美をくれてやるとしよう。


「ひっ……ぁ、…っん…!」


 蜜を携え薄紅の花を咲かせる美穂の、身を潜める実を薄皮から露出させ、根元を指で捕らえる。

 緊迫した美穂の体は、ビクリと過敏に反応する。


「っあ…ふぁ、…んっ…あ、あぁっ…」

「ここ、気持ちいいだろ」

「ぁ…あ、あっ…そこ、だめっ…」

「美穂のクリトリス、すげー熱いぞ」

「やぁあっ…言わない、でっ…!」


 高揚にぷっくりと腫れた蕾を撫で回してやると、美穂はまた泣き濡れる。

 本人の興奮の効果もあるだろう、彼女の愛液は目に見えて溢れ、太ももへと流れ落ちていく。


「オマエほんと感じやすいな…今からこんな濡らしてどーすんだよ」

「や…ぁっ……あ、…宮城せんせい、がっ…そんな、ことするからっ…あぁああっ…」

「そんなこと? 美穂はこうされるのが好きなんだろ、ほら…」


 欲情に膨らむ恥核の根元をやんわりと指の腹で擦りながら、尖らせた舌で弾くように舐めてやる。


「あっ…や…ああぁ! ひぁ、ん…っ…んぁああア…ッ!!」


 勃起しきったクリトリスを軽く吸い上げて圧迫しながら、舌で転がし揺らして刺激を与え続ける。


「ひぁ、ああぅっ…! すっちゃ、だめ、だめぇえっ…!! ふぁっ、あっ!! あぁあああ…っ!!」


 嬌声を上げ、2,3度全身をわななかせる美穂。

 痙攣が治まらない様子から、どうやら軽く絶頂を迎えたらしい。

 しかし愛撫をし足りない宮城は片眉を上げると、震える蕾を尚も舐めまわす。


「や…ぁああ…っ…! 私っ…ぁ、イッ…ちゃ、た からっ…ァ、んんぁっ…!」

「やらしー美穂はクリトリスで何回もイけるだろ? 続けてイかせてるよ」

「いやァッ、ぁ、あ、っ…! ふぁああっ…! そんな…っに、しちゃっ…だめぇええっ…!!」


 いやいやをするように暴れる美穂の太ももを、宮城が押さえつけて逃さない。

 ビクビクと腫れあがった蕾に軽く歯を立て、甘噛みをしたまま舐めてやると。


「きゃ…ァ、ぁあ、やぁ、イッ…や、ぁあああっ…!」


 再びあっけなく果ててしまう。

 が、頂点で震えている美穂の体を休ませることなく、今度は膣に指を2本、ゆっくりと沈めてやる。


「や、やぁあああっ…!! い…れちゃ、はぅっ…ァ、あぁあアあ…っ…!!」


 挿入された異物を包んでまとわりつきながら、湿潤な媚肉は宮城の指をなめらかに抽送させる。


「すげー濡れるなァ。そらそーか、もう2回もイッたからなー美穂は」

「もっ…や、やめてぇえっ…ヒック、ぁ、ふぁっ、アッ…あああぁ…!!」

「指締めつけといて、感じてるくせにな。中かきまぜられんの気持ちいんだろ? ほらほら」

「ア、ふぁっ、ぁああ…っ! だめぇえっ…そんな、ぁっ…ア、んっ…宮城、せんせぇえっ…!!」


 絶頂を迎えたばかりで敏感になっている淫部に、与え続ける快感。

 それは、意地悪な言葉と共に加速していく指と、悪戯な口調とは裏腹な優しく甘い舌の滑らかな動き。

 丁寧な愛撫というより、宮城から注がれる濃密な情愛に、いつまでも美穂が耐えられるはずがなかった。


「~~っ…んンんぁあアッ…や、いやぁああっ…! イッちゃ ぅ、…イッちゃうぅ…っ…!!」

「イけよ…可愛いエロ美穂」

「やァッ…宮城せんせぇえっ…イ、ッちゃああぁあ…!! ひァ、ぁっ、あ、ああぁあ――…っ…!!」 

 快楽に犯された体を痙攣させ、鼻にかかる甘ったるい声を保健室に響かせる美穂。

 普段はどこか強情なくせに、官能の喘ぎは素直ときてる。


「ハァッ…、はっ…、ん…っ…、…は…っ…」

「たかが前戯で、3回もイくなよなー」

「~~っ…だれの、せいで…っ…!」


 潤んだ目で睨みつける美穂の足を降ろしてやると、絶頂に疲労してぐったりしているわりには、体を縮めて宮城の目線から秘処を逃した。

 シーツを透き通るほど濡らして何回も絶頂しておきながら…今さら隠すものなどないだろう、これからが本番だというのに。

 しかしそんな美穂と本番を前にした自慢の息子の緊張は、尋常なものではなかった。

 どこに出しても恥ずかしくないはずのジュニアは怒張して肥大しきり、卑しくもよだれを垂らしている。

 婿入りは、まださせない。

 向こうに挿れる前に、擦らせて男に磨きをかけようか。

 美穂の花嫁修業の一環にもなるだろう。

 …まさか童貞中学生よろしく、今なら三こすり半(=3往復半)で出そうだから、とは言うまい。

 自分が優位に立ったまま行為をさせる見栄っ張り変換をすると、以下のようになる。


「オイ美穂。次は男を喜ばせるフェラ教えてやるよ」

「っえ、それって…」

「くわえろ。何事も実践あるのみだ」

「~~っ…!」


 こう言えば、優位は保たれる。

 快楽に疲れた体を起こして従おうとするあたり、美穂にも興味がないわけではないのだろう。

 ペニスに触り舐め咥えることに、最初は恥らいなり抵抗なりあるのが大半。

 泌尿器でもある性器。だからこそ手と口で施す愛撫は、好意の表現方法にもなりえる。

 伝授する秘技を有効に性交に使え。

 そしてそれは、美穂の好きな奴に尽くしてやればいい。

 …などと、良心めいたものではない。

 “指導”と銘打っただけの、一見フェミニストなフェラチオは、ただ美穂に咥えさせたいだけの詭弁だ。

 宮城が衣服を脱ごうとすると、美穂は「ぎゃ」などと言いながら両手で顔を覆った。

 指の間から瞳を覗かせつつ、股間で屹立する一物を凝視するなら、視野を狭めることは無意味と思われる。


「な…、なんか…、…超たってる…!!」

「勃たなきゃオマエの中にブチ込めねーだろ」

「ブチ、って……、こわー!!」

「いーから早くしろや」


 仁王立ちになった宮城は、美穂の手を股ぐらへと招いて直接触れさせる。

 膨張して欲望を誇張する欲棒。

 隆起する豪気に怯みつつも、美穂の好奇心は学習意欲に臨む。


「ひゃ…」

「まず玉だ。優しく触れよ」

「やわらかい、なんか…ふにふにしてる!」

「っ…ソレ、つぶしたら殺すぞ」

「は? 殺…!?」

「…その前に俺が死ぬけどな」

「つぶしたら、宮城先生が死ぬの??」


 指で揉むと皮袋の中で動く珠を見つける。相手の急所を弄びながら、美穂は不思議そうに首を傾げる。


「…へんな物体」

「お前はその変な物体を入れられて感じてんだろが。じゃ、玉触りながらサオ握ってみ」

「さお? って、コレ? うっわ、硬!」

「…コレいうな。そっと握って、上下にコスれ」


 握れ擦れと言われても、極太の長柄を美穂の細長い指で掴んでみても、一周回りきらなかった。

 鍛え上げられた筋肉のような硬度でそそり立つ欲望の塊。

 左手でやんわりと陰嚢を撫でながら、右手につかんだそれをゆっくりとしごいてみる。

 …これだけ逞しい男根が、普段は閉じた自分の体内に入り込んで激しく暴れまわるわけだから。

 性交というのは、凄まじい行為だ。


「何うっとり見とれてんだよ。ちゃんとやれ」

「み、みとれてなんかっ…!」

「じゃコスりながら玉舐めろ」

「う…うん」


 美穂は覚悟を決めた。

 顔にかかる髪を片手で押さえ、異形な陽物に畏怖しながらも顔を近付けてみる。

 唇を開き、舌を出してひと舐めすると、僅かながら宮城がビクリと反応をみせた。

 しかしどう舐めていいのか分からず、美穂は猫のようにペロペロと舐め上げてみる。


「く…、…、っ……は」

「ん…?」

「は…っ、……ハ、ハハハッ! やめろ、くすぐってェよ!」

「あれ、感じてないの?」

「そのくらいで感じるか! それ、口に入れてみ」

「ん…」

「歯は立てないように、唇の裏におさめとけよ」

「んんむ…っ」


 ギュッと目を閉じ、思い切って睾丸をほおばってみる。

 一口では収まらない大きさだったが、双方ある一方を口に含むと、再び皮袋の中にある塊を見つけた。

 これは何なんだろうと思い、唇と舌で引き寄せ口内に収めてみる。


「…、……っ」


 捉えた玉をやわやわと舐めては舌で包み、上あごに押し付けて軽く圧迫して、美穂はその不思議な物体の正体を捉えようとした。

 柔らかい卵を割らないように、口の中で緩く転がす。


「……っく、…美穂…」


 宮城からしてみれば、思考力ゼロの赤子に精巣を清掃させている気分だった。

 つたない運びながら丹念に這い回る快は、もし負荷が強まれば今後使用不可になってしまうスリルと隣りあわせ。

 冷や冷やしながらも宮城は美穂の頭を撫で、好きなように任せてみる。


「んむ~ぅ…」


 美穂といえば初めて触れるモノに興味深々で、陰茎よりまず陰嚢から制覇しようとした。

 手でも触れたもう一方にも、同じように卵を発見。

 潰したら宮城が死ぬという弱点。

 …押し潰してやろうか、などと思いながらも、指で柔らかく捉え舌先で擦って遊んでみる。


「…っ、…、……」

「?」

「……っく、……ァ……」

「…!!」


 耳が捉えた小さな音は、…どうやら宮城の喘ぎだ。

 美穂は興奮と驚きのあまり吹き出して笑いそうになったが、何とかこらえることに成功した。

 こんな偉そうな男でも、与えられる快感には真面目に浸るらしい。

 当初は緊張していた美穂も、いつの間にか性器を舐めることへの戸惑いを忘れていた。

 なるほど。

 相手のよがる姿を眺めるということは、なかなかの歓楽だ。

「…美穂。あと、コッチも離すな」

「ん…ぷぁっ、……ん、…さお?」

「ソコ握りながら、裏筋の下から上に向かって舌でなぞれ」

「ん…、こう…?」


 美穂のしなやかな指が陰茎をそっと揉み撫で、柔らかい舌で裏側の筋を走らせる。

 敏感な触覚神経信号に伝達された異常な快感感覚は、海綿体に血流を巡らせ、肉質の硬度をより高める。


「……っそのままカリを、亀頭の裏とか溝も感じるから、舐めてみろ」

「かり? …っえ、と…」


 宮城が指で指し示す亀頭冠に顔を近づけ、そっとキスをしてみると、肉塊はビクリと反応してみせる。

 カリ高のある段差部分へと舌を伸ばして探りを入れると、掴んだ手の中でさらに勃起力が上がる。


「っ…、陰茎はな…、女でいう、クリトリスだ。それだけ敏感だから、丁寧に扱えよ」

「ん、ぅ…」


 カリに唇を押し当て、尿道口を舌先で突いて刺激を与えると、身震いして快感に顕著な反応を見せる。

 舌で亀頭を責めながら、握った手では親指で裏筋を撫でつつ、ゆっくり上下に動かしてみる。


「…っ、美穂、なかなかだな…」

「んむぅ…?」


 本当? と見上げる美穂に、宮城は返事の代わりに髪を撫でとかす。


「……次、それ咥えろ」

「ん…」

「フェラは唇と舌と口、全部を使う。上あごと、頬でも擦るんだ」


 雁首を口に含むと、「もっとだ」と宮城の手が美穂の頭を下に押す。
「んぐぅ…」と呻きながら、美穂は何とか口いっぱいに頬張り、喉奥を閉ざして咥え込む。

 当然、根元など程遠い。

 届かない部分は握り締めた手に力を入れて擦る。


「一回のストロークで、舌で根元から亀頭まで磨け。舌で強弱つけながら筋を下から上に、っ…そうだ、それが基本だ」


 両手で頬を掴み、美穂の顔を前後させ、自分を咥える薄紅の唇を眺めながら緩いピストン運動をさせる。

 舌の表面にある舌乳頭と呼ばれる細かい突起の密集が、淫茎の裏側を包み込んでなぞっていき…、その感触にまた欲望が熱くたぎる。


「…っ、く、…美穂、それから…」

「…っ、…ん、ふぅっ…?」

「…それから、唇もたまにすぼめたりして、違う刺激を与えろ」
「ん、…んくっ…」


 熱い唇の柔らかさが竿を撫で擦り、かと思えばキュッと閉じてみせたりする。

 実に飲み込みの早い、教えがいのある生徒だ。

 そのうち、淫茎を擦り磨く手の動作が滑らかになり音が伴い始めた。

 潤滑をよくさせる美穂の唾液には宮城の先走りも入り混じっていることだろう、卑猥な音が淫靡さを増していく。


「…っ、よし…、それから…、ちょっと吸ったりしてみろ」

「んん…?」

「たまに思いきりバキュームしながら…舌と上あごと、頬の内側でも擦れ」


 吸う、というのは宮城も美穂への愛撫で多用している秘技だ。

 淫茎を吸い上げてみると、窄めた頬の内側でも擦れるのが分かる。

 使える所全部を使って、美穂は相手に奉仕する。

 一つひとつの動作はまだ少し稚拙だが、丁寧な愛撫は、彼女の一生懸命さを宮城に伝えた。

 柔軟な動きをみせる指、頬を窄めて巨根を咥え込む小さな口に。

 ギンギンのサオを何度も打ち付け何度も洗い、美穂に奉仕させる征服感に酔う。


「いいぞ、美穂…。あとは緩急つけてもったいつけてたり…寸止めを、繰り返したりして…快感を煽れ」

「んむぅっ…」

「出させようとするな。出したくても、出させないようにしろ…っ」


 次第に声を弾ませる宮城に情欲の高まりを感じた美穂は、熱心に亀頭へと刺激を与えながら、陰嚢には指先でくすぐるようにして触れる。

 そしてまた根元から亀頭にかけて激しく舐め擦り興奮を高める。

 まだ足りない…。もっと、もっと…。


 じらせ、
 っつーか俺をまだ
 イかせるな


「口が動くと、手がおざなりになってるぞ…っ!」

「んンンッ…!」

「あと余った手で玉も、もっとさわりながら…、…ッ…!」

「ふぁ、…んぁっ…!」


 容赦なく腰を打ち付ける宮城に、美穂の呼吸は妨害され、顎や頬にも疲労が溜まる。

 しかしやはり息を荒げた相手は、苦渋に歪んだ表情を浮かべ、さらなる官能への武者震いを起こしている。

 美穂はそれを頭上に眺めながら、なぜか心臓が逸るのを感じた。

 自分の愛撫で相手の興奮を高めるのが奉仕側の醍醐味。

 だが宮城はまだ自分のペースを保ち、男の色香など漂わせている。それが気に入らない。

 もっと無様によがれ。余裕など削ぎ落としてやる。

 悦楽には触れされるが安々とは昇らせない、そう物語る舌責め。

 研磨をかけておきながら時に歓喜に浸る相手を突き放し、より高みへと誘い込む。


 ――クソッ
 その愛撫、まるで 
 俺じゃねーか‥!


「…、…は、…っ…!」

「んむ…っ、ちゅっ、……んふぅ…っ!」

「…ァ、く……美穂…っ…!」


 撫でていたはずの黒髪を握り締めて震える手に、応えるように美穂は相手を見上げた。

 真っ直ぐな上目遣いに対し、物憂げな瞳の宮城は、少しずり落ちた眼鏡を直すこともなく、歯を食いしばって瞼を閉じた。


 ‥そんな顔で
 コッチ見んな、
 出させるな‥!


 摩擦刺激により血流の流れが組み変わる。

 中枢興奮が最高に達しようとし、弛緩と収縮を繰り返す筋肉が射出を促す。

 淫茎口唇抉擦。

 口淫高速往復運動。


 ‥マジでムリ、
 耐えらんねー
 俺がギブ


「――ァ、は…、っ……!!」

「…んっ!? んっ…ぷぁっ…!」


 美穂の頭を掴んで固定させ、最後に打ち込んだ一突きでビクビクと廃液を放つ。

 前立腺を貫き、射精管から尿道を飛び出る快感の熱。

 感嘆の溜め息を、深く、吐く。


「ん、んんぅ…っ?」

「ハァ、ハッ…、美穂テメー、…なかなか、やるな…」

「んんんーっ?」

「いーから…まずそれ、飲め…。マズそーな顔したら、相手に失礼だからな…」

「ん…っ」


 口内を支配する濃厚な独特の苦味。

 これは努力の賜物だ。

 何とかゴクリと成果を精飲すると、美穂は嬉しそうな顔をしてはしゃいだ。


「やった! 宮城先生に、出させた…!」


 汗を滲ませ、疲れを忘れて無邪気に喜ぶ美穂。

 その様子に宮城は苦笑した。


「ハッ…。初めてにしては、まぁまぁだったな…」

「ほんと? 宮城先生、気持ちよかった?」

「ああ」

「ほんと!?」

「ああ。…つーか、まだ掃除フェラも残ってるぞ」

「掃除?」

「口で舐め取って綺麗にするんだ。尿道に残る精子を吸い取ったり、な」

「わ、わかった。ん、ぅ…」


 講義をたれながら後戯させる。

 漏水する我慢汁。

 汲水される我が精子。


 そこまで尽くしてやれば、肉体的なスキンシップも愛情の証となるだろう。

 そう。これは美穂に教えてやっただけの、単なる『課外授業』。

 いくら美穂が懸命に宮城に従順な奉仕をしてみせたところで、…勘違いするな。

 そこには何の情もない。 


「…ククッ…」

「…?」

「ハハッ。ハハハッ…」


 普段は何に対しても無気力で、自身の香りたつ美貌にすら無関心でいる美穂が。

 脱がしてみれば濡れに濡れよがり、無邪気にも保健医の男根にしゃぶりついてみせるという珍行為に、チン行為にまで及んでいるなどと、一体誰が想像するだろうか。


 それをさせているのが
 他の誰でもない
 この俺


 実に好都合な教師と生徒の、男と女の体の関係。

 これこそが、互いに求める理想の間柄。


 ‥‥の、
 はずだ。


「ハハッ。…全くオマエは、最高の女だよ」

「な、なにが?」

「ナニが」

「……なにそ、…れ…」


 髪を撫でて上げさせた額に、宮城が唇を寄せたのは、奉仕への恩賞。

 薄っすらと赤く染まる美穂の頬にキスで歩み寄り、唇にまで到達させようとしたのも、ただ功績へのねぎらい。

 しかし美穂は下を向き、キスから逃れたようにみえた。

 宮城は美穂の腰に手を回してベッドに横たわらせ、小さな薄紅の唇を追う。

 と、やはり彼女は顔を背け、明らかに宮城を避けた。


「オイ、逃げるな。嫌なのかよ」

「…いやっていうか…、…だって…」

「あんだよ。言えよ」

「……だって、せー…しが…」

「あぁ? …セイジ!? 誰だソレ!」

「…や、違うし…。せいしの、味。宮城先生、自分の味…するよ?」

「精子ィ!? 何だ…。いんだよ、そんなの」

「な、だって、そ、……んぅ…っ」


 無駄に腹立たせやがって。

 拒絶という選択肢を有することなど、認めない。

 顎を引き寄せ、美穂の唇を奪う。

 ふくよかな花唇との逢瀬を楽しむ今、この舌は、味覚より触覚を優先的に機能させている。


「は、ふぁ…っ…!」


 入り込んだ口内では、美穂の舌を横暴に扱いながら、時には歯で唇や舌を甘噛みする。

 そして再び舌を絡ませ、歯や歯茎をたどっては、再々、再三再四飽きもせず舌を弄る。


「んっ…、ふ、…んぅうっ…」


 吐息の温度を上げる美穂の体から、次第に力が抜けていく。

 頬を撫でていた宮城の手は、首を撫で過ぎ、豊かな弾力を鷲掴む。

 滑るような滑らかな肌触りと、震える美穂の反応を楽しみながら、自在に形を歪ませる。


「…あ……っん…、ん、んんンっ…!」


 甘い喘ぎの弾みは、宮城の指が胸の先をつねる悪さのせい。

 もう片方の意地悪は美穂の高める熱に向かい、淫泉にたどり着いて蜜を汲む。


「ぁっ…、あっ、ふぁ…っ」

「オマエまだこんな濡れてんの。やらしーなァ、そんなに感じるか?」


 質問を投げかけながら、食指を静かに美穂の内へと沈めていく。


「ん…ぁ、ああぁっ……や、…ち、がっ……ア…!」


 素直に頷けない美穂が否定しても、宮城の指の動作には、くちゅり…、と卑猥な音が伴い返事をする。

 …いや。こちらの勝手で好都合な解釈をしては相手に失礼だ。

 宮城の手ほどきで吸茎しているうちに、美穂の体が求めた長大、それを頂戴できないことこそが不満に違いない。


 ご都合主義上等
 ご所望の極上モノ
 くれてやるよ


「ククッ。そーか、指じゃ美穂は物足りねーか」

「んぁ、っ…そんなんじゃ、…っあ…」


 愛液の滴る指を引き抜き、ひと舐めすると、美穂はまた頬を赤らめた。

 緊張を高める美穂の膝を立たせ、細い脚を大きく開かせる。

 白い地肌の中心で、痴情を咲かせる紅い花。恥らいながらも美穂が知らずに増幅させる、性欲の温床。


「エロいな…。すげーエロいな、美穂」

「に、2回言わなくていい、から、……っ…!」


 いやがらせのようにジロジロとたっぷりと目で犯したあと、復活していた淫茎で、淫裂の上を撫でる。

 行き来させるたびに、美穂はビクリと仰け反った。

 滑らせるのは天然ローションの働き。

 いや、ローションとは[人工の潤滑油]。

 愛液もまたある意味、膣口による[人工の潤滑油]か?

 …などと宮城がくだらないことを思案しているうち、焦らされていると感じたのか美穂が口を開いた。


「…宮城、せんせ…っ」

「なんだ。挿れて欲しーか美穂」

「っ…だって、…こないだ、ゴムつけるの教えるって…」

「あー。オマエ意外と器用だから、口で付けるのも出来そうだ、な…っ」

「っ…ひぁ、ゃ、やぁああっ……!?」


 尖らせて固めた欲望で、愛液の溢れる二枚の小さな花弁の奥へと潜ろうと、無理矢理に中へと割って入る。

 熱く濡れた媚肉は侵入者を覆いつくす。

 まとわりつく淫靡な蠢きが、宮城を眩惑する。


「くっ……、だから、力抜けよ、美穂…っ」

「ぁ、あっ、ぁああっ…待って、っ、…生…っ、は、…いやぁああっ…!」


 狭苦しい膣壁の間に、めりこませる無責任な衝動。

 それに対し、つい先日には中出しでも構わないと言った美穂は、嫌々と首を横に振った。


 “嫌”、だとォ?
 …分かってんじゃねーか


 避妊は、快楽を目的としたSEXにおける最低限のマナー。

 快感のみを優先することは、危険と隣り合わせ。

 保健体育では100点の解答だ。


 ‥んなこた
 100も承知


「わりィ。もー、無理っ…!」

「…んんっ…ぁ、あぁあああっ…!」


 理論と理性はガチで合致しない。

 どうしたことか、今日はやけに興奮した性欲が射精を煽る。

 先ほど欲望を解放させたばかりの宮城は、しかしまた火口から噴出したがる小さな息子達の暴挙に、迂闊に気を許せなかった。

 ゴム装着をすれば刺激は軽減するが、…手は他にある。


「は…っ、ふぁ、あ、あぁあ…っ!」


 抽送の速度を緩めにし、擦らせる膣の上で丸く膨らむ箇所に指を当てる。

 と、先ほど何度も絶頂した淫核は、与えられる淫覚に目覚めて再び起床した。


「ぁ、あぁあっ…そこ、だめぇ…っ! 宮城せんせぇえっ…!」

「“だめ”? こんな締め付けといて、“いい”んだろが。いーか美穂……オマエ先イくなよ」

「ふぁ、はっ……え、なに、なんっ…」

「テメーだけヘタばんじゃねーってことだ。イッたらお仕置な」

「……!? な、なっ、…そんな、…っふぁ、あぁあああ…っ!」


 攻撃は最大の防御。

 つまり相手を先に追い込めばいいだけの話。

 自分が優位に立ったまま行為をする意地っ張り変換をすると、以上のようになる。


「あ…っふぁ、…はぁぅ…っ、ぁ、あぁあー…っ!!」


 じわじわと最奥まで突き進む。ゆっくりと引いては、また緩やかに抽送させる。

 そうやって感奮興起した淫茎を、熱い蜜で覆われた柔性膜の間に抜き差ししながら、しなやかな指で美穂の秘芽を捉える。


「陰核は、男でいうペニスだ。ここ、一番感じるだろ」

「や…っめ、…ぁ、ああっ、ぁああ…っ…!!」

「勃起クリトリスをカッチカチにしやがって。やっぱヤラしーなァ、美穂は」

「ひァ、あっ…ぁあっ、あぁあーっ…! だめぇえっ…そんなに、しちゃやぁああ…っ…!!」


 先にイくなと言っておきながら、美穂の神経過敏な秘芽を上下に揺すり、宮城はわざと早急に快感を煽る。

 美穂は罰を設けられた戯弄に戸惑いながらも、さらに情欲を上昇させていく。


「ふぁ、あっ…ぁ、あああっ…だめ、だめぇえ…っ!」

「乳首までコリコリじゃねーか。勃起乳首をフェラしてやるよ」

「ぃ、ぃやぁあ…っふぁあ…っ! やっ…ぁ、ぁあっ…宮城せんせぇえっ…!!」


 振動に揺れる乳房を捕まれ、その上で丸く描かれる舌の軌道。

 口淫され震える上半身と、幾度も強欲に貫かれながら小さなペニスを摘まれ濡れる下半身。

 三点の性感を巧みにねぶる愛撫の、快感の加算と焦らしの減算という宮城の計算通り、美穂は簡単に罠へと追い込まれていく。


「ぁあああ…も、やぁあ、っ…! …が まん、…できなぁ、ぁああっ…!」

「オイオイ。まさか、もうイくんじゃねーだろな美穂は」

「んんっ…ぁ、だって…っ……イッちゃ、ぃ そぉお……!」

「ダメだ。勝手にイくんじゃねーぞ…っ」

「ふぁ、あぁあああっ…!! やっ……も、ぅ…イ…きたぃ、イきたぁぁあい…っ!!」


 形振り構わず泣き喚きながら、我がままに絶頂をねだる美穂。

 いつもそのくらい素直なら可愛いもんだ。

 もっと焦らしてやろうか。

 だが相手が悦ぶようにしてやるほど、宮城を捉える膣は激しく伸縮し、遊びが過ぎると自身の首をも絞める。


「イきた、ぃ、宮城せ、んせっ…! ぁ、んあっ…あぁあああ…!」

「ダメだっつてんだろ。それとも、お仕置きされたいのか美穂は」

「…っ……ゃ…ぁ、そ ん、な…っ…」

「あぁ? …なんだ、そーか…オマエ、お仕置きに興味あんのか」


 腰の往復運動を止めた宮城は、眼鏡越しに嗜虐的な笑みを浮かべる。


「一体ナニされるかって? ……それは後のお楽しみだ…存分に可愛がってヤるよ、美穂」

「――っ…!!」


 触れるか触れないかの指先が、美穂の花芯を軽く弾いた。

 蜜の滑る音が一際大きく保健室に響くと、次には荒々しく淫水の擦れる音がした。


「ッア…! ぁ、アッ、や、いっちゃ…あぁあああ…っ! ァア、あ、あっ…ぁあああ――…っ…!!」

「……っ…は…、美穂、締め付けすぎ、だ…」


 淫核を嬲られた彼女の雌は、宮城の雄を吸い上げようと、最後まで卑猥な肉で何度も撫でては締め付け、吸い上げようとして誘った。

 しかし宮城は息を殺し、動きを殺して自我を保った。

 美穂は淫らな感覚に占拠され、先に激しい快感の終着を迎えたようだ。

 …が、宮城にナニをされるか期待した心境が、美穂を絶頂に導いたことも明白だった。


「我慢しろ、って言ったのになァ…。今のはクリトリスでイッたのか? それとも美穂、そんなにお仕置きされたかったのか?」

「…ァ、はぁっ、…っ、あっ……ゃ、や…、め…っ……!」


 限界に達して痺れている淫核を、尚も指先で揺さぶる。

 弱々しく痙攣している美穂から一度自身を引き抜いて、相手をうつ伏せにさせると、宮城はベッドに散らかる白衣に手を伸ばした。


「さーて。お仕置きを期待する悪い子には、容赦ねーぞ…」

「――!? ぁっ…や、…いやっ……宮城せんせぇ、なにっ…!」


 背中を押さえつけたまま、豊かな臀部の渓谷に指を這わせ、美穂の興奮が分泌させる愛液をアナルへと塗りたくる。

 …それが何を示すかは、美穂にも容易に見当がついた。


「力抜けよ。…ま、この細さじゃ痛かねーだろ」


 白衣の胸ポケットに挿さっていた、装飾の綺麗な黒軸の万年筆。

 宮城はペン軸をくるくると回し、その尾冠を美穂の裏口に突き立てると、ゆっくりと入門させていく。


「ぃ、いやぁあっ…いれちゃっ…、そ…んなの、…いれなぃでぇえ…っ…! やぁあああ…!」

「挿れづらいなー。もっと足開けよ」


 宮城が膝で乱暴に美穂を開脚させ、もう一方の秘穴には再び淫茎を埋めて抽送させながら、愛用の万年筆を中に捩じ込み埋めていく。

 排出する役割の器官を逆流する異質の冷たい感覚に襲われ、美穂は必死でシーツをかきむしる。


「…っんぁぁああ…!! ぁ、ああぅ…っ、や、…ぁ、やぁああああっ…!!」


 ごつごつした細い異物が、体内を浅く出入りし始める。

 痛みはないが、不快感は払拭しきれない。

 宮城の指は指で美穂の肉芽をぬるぬると摘んでは擦って弄り倒し、乱暴な肉棒では容赦なく貫くのだから、美穂の淫部は快楽と困惑に戸惑っていた。


「やめ、やっ…ひぁあ…っ…!! ぁ、あっ…こんな…の、やぁぁぁぁ…っ!!」

「やだやだ言いながら、やたら濡れるし締め付けるな…そんなに後ろに挿れられて、イイのかよっ…!」


 ‥とか言う俺も
 そろそろ限界
 ま、あと数回‥


 お仕置きに虐げられているはずの美穂は、熱く濡れた柔肉をうねらせ、宮城を圧迫しては激しく伸縮する。

 美穂を苛むほどに宮城自身にも快感が募り、欲望の制御など及ばず――。


「あぁぁぁっ…ふぁ、…んんぁあ…っ…!! 宮城せ…んせっ…!!」

「――く……っ! ァ、……っあ…ぶね…っ!」


 ギリギリで引き抜いた淫茎から噴射された白濁の遂情が、美穂の背を汚した。

 ずっと我慢していた射精が叶い、まだ出る灼熱を放つ恍惚の眩暈に襲われる。

 しかし尚も、不満を訴え巡る血潮はいきり立っていた。

 美穂といえば、背中の皮膚に熱く降り注いだ精子にすら感じて身を捩っていた。

 引き抜かれた恥部からは透明の粘液がだらしなく滴り落ち、中断された抽送に焦がれ、小さく身震いしている。

 どうやら美穂自身も、この状況に知らずに興奮しているらしい。


 ‥オモチャにされて
 そんなに嬉しいか


「ハ…ッ…ぁ、ハァ…ッ、…は、…っ…」

「くははっ…、美穂、まだお仕置きして欲しいんだろ…」


 ビショ濡れで
 自覚症状まみれ
 だもんな

 
「ぁ、…あっ……宮城、せ…んせぇえっ…!」


 ‥覚悟しろよ


「可愛がってやるよ……速攻、続行だ」


 弓なりに反る背中にぶちまけた宮城の白蜜をティッシュで拭ってやる。

 しかし美穂の花蜜は、恥を知らずにとめどなく溢れ続ける。


「さーて。次は、コッチにブチ込んでヤろーか?」


 桃尻を撫でるとビクリと反応して怯える美穂に、小道具を回転させながら何度か浅く突いてやる。


「ぁ、やあぁっ…!! そっ…ちは、いやぁぁぁ…っ!!」

「ハハッ。ま、俺の入れたら間違いなく裂けるだろーからな。じゃ、どこがいーんだ美穂は」

「…ふぁ、っ……ま、…前ぇ…っ…」

「前ェ? 前って何だ、どこだよ」

「…ァ、ッ……美穂…の、…ま、…まん……、…っ……」


 言いかけた俗称の語尾を、彼女のすすり泣きがかき消した。

 浅ましくも自ら腰を振りながら、美穂は最後まで羞恥を拭い去れないでいる。

 しかし……それで済ませるほど、宮城が優しいわけがない。


「あぁ? 聞こえねーよ。美穂の、まん…?」

「~~…っ、…、……こ、ぉ…っ…!」


 万年筆を尻尾のように生やし、四つん這いになった美穂は振り返り、泣きながら精一杯宮城を睨んで続きを補足した。


 ‥なんだこの
 弱々しい女豹は
 歓喜に勃起させやがって


 泣き濡れ鳴きわめき、弱さにまとう強がりの虚勢。

 そのくせ、したたる欲望のしたたかさ。懸命に切望する媚態は、愚かであり愛しくもある。

 くどいようだが……それで許すほど、宮城は甘くもない。


「ふはっ…。しょーがねーなァ。いい子には、ちゃんとご褒美くれてやるよ」


 ――訂正。

 宮城は、あっさりと美穂を許した。

 彼自身、もう相手を弄る余裕がなかった。

 描出に誤りがあったのは、彼の性欲に屈した自尊心が謝っただけだ。

 欣幸の珍宝を、淫奔な満腔と再び結合させる。

 蕩けそうな媚肉の感触による熱く厚い迎賓を受け、溶けてしまいそうだ。


「ぁあああっ…、ぁ、あぁ…っ…、宮城先、せっ…!」

「ヤケに感じるな…万年筆と一緒に挿れられて、そんなに気持ちいいか。なぁ。なぁ美穂…っ」

「んぁあ…っやめ、ひぁあああ…!! だめ…っ、かきま わしちゃっ…だ…めぇえっ…!!」

「…っ…は、…美穂……オマエの中、狭いしエロすぎ、だ…!」

「あぁぁっ…宮城せんせぇえっ…ア、ぁあ…ん、っ、あああぁぁ…!!」


 女体攻略。

 膣内にある快感スイッチを、一点集中連打。

 リズムよくワインディングロードを駆け抜け、アナルへのインサートにプラスし、ヴァギナのGスポットをスライド。

 相手はオートでオーガニズムに陥り、堕ちる。


「んんンッ…ぁ、やぁああっ……も、おかしくな、っちゃ……ぁあああ…っ…!!」

「まだ、正気保つ気だったのか…狂わせて、やるよ…っ!」

「あぁあああっ…!! そんな、に…しないでぇ…っ!! も…ぉ、むり、ふぁああ、あ…っ…!!」


 渦巻く不整脈な淫欲。

 硬く逸り踊る海綿体、飛び出しそうな自我。

 飼い慣らせない欲望は有頂天。

 スパイスに感じスパイラルに昇天。


「ふぁああ…っ……宮城せ、んせぇええ…っ……」


 ‥うるせェ


「ぁ、あっ…宮城せんせ…ぇ、…宮城せんせぇえ…っ…!!」


 何度も呼ぶな
 こんな時だけ
 求めるな


「ひぁ、あっ…宮城せんせ、…っ…! な、……、…ぇ…っ…!」

「…あ……?」

「……な……まえ、……よんで、ぇ…っ…!!」

「ハッ……アホか…」

「ひぅっ…ぁ、ああっ…イっちゃ、ぅ、…っん、あぁあああっ…もぅ、だめえぇっ…!!」


 性急な性欲に加担され、誘われ、根負けし、快感を受け止めきれず、跳ねあがる。

 フラストレーションが溜まる。

 ゲージを振り切ったリビドーは、自分でも抑えがきかない。


「……一緒、にっ…イ くぞ、…美穂…っ!」

「~~ぁ、っ、…ア……、…ッ…!!」


 奥底に注ぎ込みたい我欲を堪え、体外へと排出させるのは最後の理性。

 快楽を放ちながら現実に踏みとどまっていられる、…敗北感。


 ‥勝ちを奪いにいく
 価値もねェ


 胸中のわだかまりというかたまり、その全てを吐き出してしまえばいい。

 虚しさすら放出すれば、一気に冴めるのが男の生理。


 ――だからこそ。

 それでもまだ、残っているものがあるとすれば。

 それは――…。 


「ッ…、っは…、…ん…っ」


 廃液が乾く前に、美穂の背中をティッシュで拭ってやる。

 鎮静したチン精の後処理も済ませ、ぐったりしている彼女を抱き起こし、肌を濡らす愛液や汗も綺麗にする。


「…い、いーよ、自分でやるか…ら、…あ…っ!」

「何だ。股拭かれてまた濡らしてんじゃねーよ」

「やっ…ち…が、~~っ…!」

「デリケートゾーンは清潔にしないとな。って、これじゃ下の世話されてる気分か?」

「…っさ、さいてえぇっ…!」


 冷やかしに怒る美穂に、宮城は片腕で細い膝を立たせ、ティッシュの数枚で濡れた花びらの一枚一枚を柔らかく拭う。

 丁寧な仕草と手つきに、美穂はやがて抵抗をやめて大人しくなり、赤い顔を膝にうずめた。


「…なんか、宮城先生って…いつもすごい、いじわるだけど…」

「あ? 何だよ」

「ときどき、やさしーね…」

「時々ィ? いつもだろが」

「うん…いつもとか、ほんときもいよね」

「あぁ!? なんっ…」

「あはは。冗談」


 ‥‥
 このクソ女ァ


 忍び笑いをシーツに隠す美穂から、邪魔な布を引っぺがしてやる。

 くすくすと笑う声を唇で塞ごうとすると、美穂は逆らって背を向けた。

 肩をつかんでこちらを向かせ強引にキスをするも、転がる声は合わせた唇の隙間から溢れる。

 漏れる音は、しかし次第にお互いの吐息に変わっていった。


 二人でじゃれ合い、戯れ、体温を重ね合いながら。

 宮城は、自分がとある病魔に冒されていることをはっきりと自覚した。


 いや、認めない、認めるわけにはいかない。

 肯定しても意味がないなら、報われないなら否定したい。

 …そんな風に、いくら抑え込んでも――…。


 唇がしびれるほどキスをして、どちらともなく離れて屈託のない笑顔と向き合う。

 それだけ。

 たったそれだけの要因で、次々に溢れる病原体。

 胸の中で増幅する諸悪の根源どもが活性化しては気分を病的に高揚させ、心身のバランスを取れなくさせる。


「宮城せんせい…。また、…しよーね…」


 真っ直ぐに宮城を見上げる照れ笑いには、素手で心臓をわしづかみにされたような衝動にかられ、疼く胸が苦しく呼吸困難に陥る。


「――っお、オマエな…」

「? なに?」


 数々の初期症状に見舞われ、思わしくない診断結果に。

 宮城はベッドに片手をついてうなだれた。

 恐ろしい…細胞レベルにまで病勢が悪化している。

 他のヤツら皆こうなのか?

 俺だけ別の奇病じゃねーの?

 とりあえず自己分析の前に冷静になろうと、肺に空気をたくさん送り込んで深呼吸をひとつ、吐く。


「…美穂、オマエな。保健室に一体ナニしにくるわけ?」

「へ?」

「……まさかテメー……俺の体が目的か!?」

「……」

「…いや、何かコレ『男に遊ばれる都合のイイ女』が言いそうな台詞だな…」

「うん……サイテーだね。もうしねば」

「オイ! 最低とか死ねいうな。傷つくだろ俺のガラスハートが」

「じゃ、しねば」

「あのな。おま…」


 ‥いや、話がそれる
 理由を聞いてんだ
 ヤりたいだけなのかと


 ――それは好都合。

 そんな展開を望み、そう仕向けたのは宮城自身。


 ‥なのに
 他の何の理由を
 求める気だ


 ――他の理由?

 何を求めるか、ではなく、なぜその理由を求めるか、だ。


「…いってェ…」

「えっ…なに? どーしたの?」


 なんだこれ
 胸が

 

 イタイ

 

「…美穂の言葉で、ほんとに死ぬ」

「あ、もうこんな時間。帰ろっかな」

「オイ、シカトすんな。…まてよ」

「え?」

「いや…なんでもね」

「なにもう。意味わかんない」


 背を向け制服に袖を通す美穂。

 引き止める手段にあれこれ思案をめぐらせる宮城。


「…なぁ」

「なに」


 しかしそんな口実など、SEX以外の何もない。


「……」


 “帰るなよ”
 まだ、一緒に

 

 イタイ

 

「ハハ。なんーてな…」

「…宮城先生」

「あ?」

「宮城先生が私と会ってくれるのは、私の体…目的?」


 背を向けたまま、手ぐしで髪を整え、淋しさを入り混ぜた声で同じ質問を相手に返す。

 ……こんな様子の美穂は、少しだけ宮城に甘えたがっている時だ。


 ‥俺が美穂と
 会う理由?
 そんなの‥


 ――全身が得体の知れない病魔に冒されてからやっと気づいたんだまさに医者の不養生まさかここまで悪化しているとはもう手のほどこしようもないだから嫌だったんだこんなにも鬱陶しくこんなにも煩わしく、そしてこんなにも面倒で…


「私……またここきても、いい?」


 こんなにも
 腹立たしく


「…そんなこといちいち聞くな」

「先に質問したの、宮城先生だけど」


 こんなにも
 切なく


「あー…。なぁ、美穂」

「なに」

「美穂」

「なにっ」

「いーか。よく聞け」

「だから、なんっ…」

「愛してるよ、美穂」


 こんなにも
 愛おしいなんて


「…ぶはっ。フルチンで何いってんのっ」


 ハハ
 ほんとにな


 包み隠すものなど何もない。

 言葉にすればより明白になる。


 ‥俺って美穂に
 惚れてんだな


 惹かれたのは気丈な弱さ。

 強がりの笑顔。

 会いたいなんて馬鹿げてる。

 守りたいなんてくだらない。

 そう思うのはきっと、ビョーキだから仕方がない。


「宮城先生、…ありがとう」


 ありがとうて
 何だ


「……私も」


 ‥あ?


「宮城先生あいしてる」


 ‥あぁ!?


「…先輩の、次に!」


 ‥‥あーあ


 絶対コイツ、俺の言ったこと冗談だと思ってるだろ。


「ったくよー。やってらんね」

「ぎゃっ! マッパで大の字に寝転ばないでよっ!」

「どーでもいーだろ。見ろ俺の全て」

「…ほんと、しんでくれない?」


 まいった降参
 もう何でも来い


 故意でも恋でも
 好きにしてくれ 

 ドアが開けられないと言って美穂がうるさいので、宮城は渋々シャツと白衣を羽織り、ネクタイを締めた。

 が、まだ指摘があるので仕方なく下着とズボンを履いた。


 …その時。

 外側から保健室を開けようとする人物が現れた。

 彼は鍵のかかっていることに気付くと、ドアを数回ノックした。


「宮城先生。いらっしゃるんですか?」

「…ヤベ。生徒だ」


 宮城は反射的に、ベッドの仕切りのカーテンを閉ざして美穂を隠した。

 保健室に通いつめる女子生徒との誤解を招かないように、用心するに越したことはない。

 美穂をここに留めておこうとする必死さなどではない。

 ……無きにしも非ずだが。


 ドアを開けると、知っている顔がそこにいた。

 そしてその生徒は、廊下に立ったまま用件を告げた。


「宮城先生、また薬ください。頭痛持ちなんで」

「あー。生徒会長の…」


 宮城が口にした代名詞のあと、勢いよくカーテンの開かれる音がした。

 どうやら美穂は、美穂の憧れの存在である『生徒会長』という言葉に反応したようだ。


 ‥おいおい
 胸、はだけてんぞ


 呆れて振り返る宮城ともう一人の生徒を見比べる美穂は、ベッドの上で四つんばいになった格好で、ブラウスの間から下着に収まりきれない胸の谷間を覗かせていた。


 ‥だから
 怪しまれる行動を
 控えろっつの


「美穂。熱はどーだ、体温計ちゃんと測ったのか?」


 宮城のとっさの機転に、美穂は自分の失態を気付かされ、慌てて胸元を押さえた。


「……生徒会長、っていうから…。なんだ、今の生徒会長じゃん」


 ボタンを留め直す美穂の言葉に、廊下の男子生徒は気分を害した。

 胸元に釘付けだった視線と一緒に、威嚇するように顎を持ち上げる。


「あぁ~ん? なんだとは何だてめぇー。俺じゃ不服なん、…――って、うぉおー!? あんた、白鳥美穂かよ!!」


 やっと認識した相手に驚き、坊主頭にラインの剃りを入れた少年は、リアクション芸人ばりに大きく仰け反った。

 この男子生徒は前期生徒会長からの推薦もあり、後期の生徒会長に選任された2年生。

 確か名前は村瀬…、村瀬友禅。

 その名前から京都出身かと思いきや、そうでもないらしい、ごく普通の少年だ。


「や、びっくりだな~。あ、俺さ、あんたのねーちゃんと同クラなんだ」

「…だから何」

「だからっていうか、いやー…、つかマジで全然似てねーよなー」

「……」


 ‥“姉”の話題を
 してやるな 
 少年よ


 美穂は元々、自分の話をしない。

 特に家庭環境については、一切を口にしなかった。

 つまり、話したくないということだ。

 同じ学校内にいる自分の姉とは、すれ違っても会話どころか目を合わせることもない。

 …どうやら美穂は自分の姉に対し、昔から何らかの劣等感を抱いているようだが…。

 頼りなさそうな生徒会長が美穂の前で余計なことを漏らす前に、薬を渡してとっとと追い返そう。

 宮城は薬棚から頭痛薬を取り出し、錠剤シートから2錠分を切り離して村瀬少年に手渡す。


「ほら、頭痛薬だ。一回分でいーだろ」

「あっすんません。今日も前期生徒会長…大川先輩が、白鳥姉と一緒に生徒会来てるんで」

「じゃ、早く戻ってやれよ」

「いやー、あの二人が一緒にいると、どうも目のやり場に困るっつうか。大川先輩がニコニコニコニコしちゃってて、もう大変っす」


 だから‥
 そういうことを
 言うなよ


「いーから早く行け。病人がいるんだぞ」

「あー、そーでした。でも大川先輩だったら、白鳥のロリ姉より妹みたいな美人と付き合ってそっすよね」

「――……」


 だから‥
 それを言うなよ!


「テメェ…もう消えろ」

「…え? え!? な、なんか、俺悪いこといいました!?」


 宮城が声の高低を下げたことで、村瀬少年は不味いことを口にしたと察知した。

 が、その理由まで分かるはずもなかった。


 “美穂の憧れる前期生徒会長と付き合っているのは、美穂がコンプレックスを抱く自分の姉”


 このことを、美穂はまだ……。


「別に…宮城先生、私平気だから。気を遣わなくていーよ」


 ‥‥あ?


「美穂、おまっ……知ってたのか!?」

「知ってるけど? さっきだって、廊下でみんなウワサしてたし」

「あ? あー…」

「え? え? なに? 何なんすか?」


 ……そういえば。

 美穂が宮城に声をかけた時、そばにいた女子生徒たちの噂話を美穂も聞いていたはずだ。

 しかし彼女が平気な素振りを見せていたのは、噂話が彼女にとって新しい情報ではなかったからだ。

 舞い上がっていた宮城は、そんなことに気付くのも遅れた。

 宮城の関知しないところで、美穂は傷付いていたわけだ。


 クソッ‥美穂が
 保健室に来たのは 
 それが理由か


 所詮、宮城は美穂の慰め役。

 …けどせめて、落ち込んでたことくらい話してくれてもいんじゃねーの。


「? ねーさんから聞いてなかったとか? あれ? これ内緒だったのか!?」


 宮城と美穂の会話の意味を理解していない村瀬。

 …だから。

 美穂は姉と普段から会話をしてないということを読み取ってやれ、少年。


「なんか…この人、前の生徒会長とは大違い」

「な、なんだよ。どう違うっていうんだよ」

「小物」

「…小物ぉお!? 俺さぁー、一応あんたの先輩なんだけどさぁー。さっきから何だよその態度はよぉ」


 現生徒会長はかかとを踏み潰したシューズで大股に美穂へと詰め寄り、小生意気な下級生の態度を注意する。

 しかし美穂は微動だにせず、うるさいハエでも睨むかのように瞳だけを移動させ、ゆっくりと…相手を見上げた。

 冷たく大きな黒目に凄まれ、圧倒された村瀬は数歩下がり、宮城の白衣の裾を掴む。


「…っ宮城先生……こいつ、超怖ぇっす」

「オマエ、本当に小物だな…。コッチも小物なんだろ」

「ぉあああっ! ちょおっ、チンコつかまないでくださいよ!」


 前期生徒会長は、一体彼のどこを評価しているというのだろうか。

 まだそれを知らない宮城は、村瀬少年に気合を入れさせようと股間をギュッと掴んでやった。


 ――いずれ、同じ舞台に立つ相手とも知らずに。 


「――じゃ。私帰るから」

「あ? ああ…」


 宮城と生徒会長の横を素通りし、長い髪を緩やかになびかせドアへと向かう美穂。

 口を開けたまま、スカートを揺らす生足を目で追う男二人。


「美穂」


 坊主頭が邪魔だ。頭を鷲掴みにして視界からどかすと、宮城は美穂の後ろ姿に声をかけた。


「…また熱出たら、いつでも来いよ。美穂専用にベッド空けとくから」

「おわっ。なんか宮城先生がベッドとかいうと、ヤらしっスね」


 ‥うるせーな


 他の生徒の手前、宮城は保健医としての声をかけた。

 だが美穂になら通じるだろう。


「……うん。また、熱が出たらね」


 宮城の言葉に合わせた、美穂の返し。

 熱などなくても、美穂はまた保健室へと来るだろう。

 …それを前提とした上で。

 第三者がいることを、先生と生徒の禁断の関係という危険を、あえてお互い言葉にして楽しむ。


 二人の秘密の会話。


 じっと宮城を見、美穂は悪戯に微笑むと、くるりと向きを変え保健室を後にした。


「ばいばいっ」

「気をつけて帰れよ」


 そんな宮城と美穂の暗喩に気付かず、村瀬少年といえば、美穂の背をいつまでも見送っていた。


「へぇ~、あいつ、あんな風に笑うんすねー…」


 美穂のように自分を表に出さない人間に対し、村瀬は実に分かりやすい男だった。

 思春期の少年には、チラ見した胸の谷間すら衝撃的だったのだろう。

 完全に美穂に見とれたまま、彼女の姿が見えなくなっても、その方向を眺め惚けていた。


 ‥見すぎだ


 つかテメーが
 アイツを
 “アイツ”いうな


「テメーは早く、前任の生徒会長に薬を届けろよコラ」

「いでいでっ! 毛をむしらないでくださいよっ!」


 宮城は威厳の欠片もない生徒会長の短髪を引きちぎるように摘んだが、硬い短髪はそう簡単に抜けることはなかった。

 美穂に近付く悪い虫は、早々に駆除が必要だ。

 しかし美穂が言い寄る男いちいち全てを相手にするとも思えない。

 …そうだ。今は他の男を想っていても、美穂に一番近い男は俺だ。

 美穂にとって恋じゃないにしても、甘えにしても、逃げ場にしても。

 いつだって受け止めてやろうってんだ。

 お前を見守る男がいるということも、覚えておけ。


 ‥ただし俺は
 美穂を
 欲している


「……村瀬」

「な、なんすか」

「あの女はな、無理だぞ」


 お前には
 くれてやらん


「でも…、いい女っすよね」


 当たり前だろ


「ハハ。…さーな」


 取り出した煙草ケースから一本を取り出して咥え、ライターで火をつける宮城に。


「…じゃ。俺、戻ります」


 男としての賛同を得られなかった村瀬少年は、保健室をとぼとぼと出て行った。


 窓の外は雨上がりで、宮城の胸の内のように晴々と澄みきっていた。

 …いや、ある意味、彼の心は燃えさかる恋心で淀んでいた。

 天候などというものは実に不安定。

 青い空に虹が架かるのも、暗雲が立ち込めるのもいつも突然だ。


 ――それでも。


 背徳の道徳 貫通し姦通
 情事で自浄 自乗する恋路


 体の結びつきは薄っぺらい?
 安心しろ
 俺のは固くてブッ太いからな。

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