to me

罪は甘い蜜の味

to you

露を舐め斎(ゆ)つ恋

 

 

 

 

 

 人は他人に対し、意識的または無意識的に「自分」という役を演じる。

 

 例えば、ある人間が娘の前で[父親]らしく振る舞い、部下には強気な態度をとりながら上司に頭を下げる[サラリーマン]となり、気になる異性の前では魅力的な[男]であろうとする。

 

 「自分」に仮面をつけるという意味でユング心理学ではペルソナといったり、俗語ではキャラを作るなどといったりする。

 

 では、仮面に秘められた影とは。

 

 表面化しないよう抑圧されたシャドウは、「自分」の作った仮面をどう見ているのか。

 

 [教師]も[男]も演じきれない宮城の、本当の「自分」とは。

 

 ……どうもこうもねェ、溜まるモンを消化も昇華も出来ねェ。

 

 インスティンクトでエレクト、直感で勃つ股間は、ナニも被ってないただの「俺」だ。

 

 

 

 

【chapter06】――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『冬』

 

 さみしくも

 さむいこころは

 さもしくも

 

    宮城 慧

 

「先生、白衣しわくちゃだよ。髪もボサボサだしー」

 

「二日酔い? 風邪でもひいたの?」

 

「……あー? あー」

 

 子供は風の子。

 

 大人は火の子。

 

 最低気温マイナス値の中でも、活発な生徒達は、背中を丸めて歩く保健医をからかうように背中を叩いた。

 

 以前なら糊をきかせた白衣に、毛先まで計算されたようなヘアスタイルで、校内を颯爽と歩いていた宮城。

 

 その白衣も今はしわだらけ、寝ぐせのついたままの頭、覇気のない顔でぼんやり窓の外を眺めていては、体調不良と思われても仕方がない。

 

 宮城は保健室に戻り、ドアに手をかけたが扉は開かなかった。

 

 先客がいるわけない、合鍵は自分で持っている。

 

 解錠して中に入り、室内にいるはずのない影をさがす。

 

 椅子に腰かけ、机に向うもドアが開かないかそわそわし、習慣づけられたむなしさにため息をつく。

 

 ――あのサボリ魔がやって来ることは、もうないというのに。

 

 美穂はあれからすぐ生徒会に入ったようだった。

 

 本人が選んだ道だ、大いなる一歩を遂げた生徒の成長は、教師としては喜ばしいことだ。

 

 他の教師や美穂の担任には、あの放蕩娘にどんな指導をしたのかと称えられた。

 

 以来関与していないが、生徒会では「一人一花育」やらの実施で、今は土いじりをしているらしい。

 

 無事に巣立ったヒナ鳥に、宮城は宮城で羽根を伸ばそうとしたが、いざ飛ぼうとしたとき飛び方を忘れていた。

 

 翼が折れた?

 

 折れたのは俺だ。

 

 羽ばたく前に、傷付くことを恐れた。

 

 窓を開け放ち、地上から空を仰ぐ。

 

 青い空に流れる、白い雲。

 

 思い描くは太陽のようにまぶしい笑顔。

 

 ――「宮城先生に生きる意味を、私が教えてあげる」

 

 あれは子供の戯言だ、きっともう忘れている。

 

 保健室で過ごした日々も、そのうち忘れてしまうだろう……。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「失礼します。頭痛薬をいただきにまいりました」

 

 その日。

 

 保健室を訪れたのは男子生徒だった。

 

 窓辺にたたずんでいた宮城は背を向けたまま首を傾け、気のない返事をする。

 

「あー…。薬なら勝手に取って、出てけ」

 

 いい加減な保健医の対応を、生徒は即座に指摘する。

 

「そんなことは出来かねます。薬の管理をすべき先生が、生徒にまかせるのはまずいでしょう」

 

「じゃ他で薬を買ってこい。金持ちのくせに、頭痛持ちだからってたかりに来るな」

 

「薬は宮城先生にお目にかかる口実です。ところで、お召し物がお汚れですよ」

 

「腹立つなー、その敬語。お前ほんとに高校生か? 腹立つなー」

 

 中庭のベンチで汚したのだろう、舌打ちしながら白衣の土埃を払う宮城に、生徒は続ける。

 

「今の宮城先生には全く覇気が感じられない。失恋ごときで何です、そのザマは。大人ならもう少し考えて行動してください」

 

 ガキのくせに、何を偉そうな態度でのたまうか。

 

 だがおよそ「ガキ」らしくない、しかも美穂との経緯をお見通しといった口ぶりに、すぐ追い出そうとしていた宮城も相手を無視出来ない。

 

「汚ねェ野郎だ。お前、村瀬に何か吹き込んだろ」

 

「そうお思いですか? だとしても、らしくない発言ですね。宮城先生こそ定石も常識もないでしょうに」

 

 現:生徒会長の村瀬に入れ知恵したと疑う宮城の余裕のなさを、元:生徒会長はクスッと小さく笑った。

 

 以前、美穂が保健室を後にしたとき「憧れの先輩」と会ったことで動揺し、――恐らくそのことで、宮城との関係が勘のいいそいつに知れた。

 

 つまり宮城は、その生徒に弱みを握られているようなものだ。

 

 教師でありながら生徒に手を出していた宮城は、村瀬のことを非難する立場にない。

 

 さらに美穂を失ってからは仕事に支障をきたし、公私混同させている。

 

 いずれは他の生徒にも「白鳥美穂が保健室に出入りしなくなってから宮城の様子がおかしい」と噂されても仕方ない。

 

 それほど宮城はこの一週間、全てに対して無気力だった。

 

 ……嫌味な奴だ、人が落胆して弱っているさまを小馬鹿にし、あざ笑うために来たに違いない。

 

 今さら隠しても無駄だ、と宮城は愚痴をこぼす。

 

「生徒に心配されるようじゃ、俺も終わりだな」

 

「弱さを持った人間の方が親しみやすい、とは思いますよ」

 

「ガキのくせに人間を語るな。やっぱ腹立つ野郎だな」

 

 宮城が振り返ると、肯定とも否定ともとれる微笑で男子生徒は破顔させる。

 

 多くの女に魅力的と思わせる甘く端整なマスクで、宮城とほとんどの男を不快にさせる恵まれた容貌で。

 

 上辺ではすましてはいるが、決して仮面の下を見せない男。

 

 大川篤――、美穂の惚れた相手だ。

 

 つまり美穂が選んだのは宮城ではなく、かつてこの男がいた“生徒会” 。

 

「アイツは好きでここから出ていった。その方がアイツのためだ。俺の出る幕じゃねェ」

 

「それでいいんですか? 相手の迷惑を考えるなら、迷惑にならないようにすればいい」

 

「ホレさせりゃいいって腹か。そりゃテメェの飼ってる小動物のことだろ」

 

「俺のことはさておき。宮城先生は、このまま引き下がる気ですか?」

 

「ハハ。何だお前。俺を笑いに来たかと思えば、挑発しに来たのかよ」

 

「とんでもない。俺はね、あなたに檄を飛ばしに来たんです」

 

「テメェに励まされるようじゃ、いよいよ終わりだな……」

 

「――、篤先輩……」

 

 その時、美穂の声が入口の方から聞こえた。

 

 美穂が、帰って来たのだと思った。

 

 しかし宮城が顔をあげると、そこにいたのは美穂とは外見も中身も似つかない別人。

 

 いや、正確には美穂と半分血のつながった姉だった。

 

 びくびくと小動物のように震え、宮城が目を留めただけで驚いたように慌てて視線をそらす気弱な女子生徒。

 

 奴に利用されているのか、……それとも人に弱みを見せない大川が気を許すのは、この少女だけなのか。

 

「おい。大川」

 

 ――結局、頭痛薬なんざいらなかったんだろテメーは。

 

 女子生徒に呼ばれ退室しようとした大川に、宮城が一矢報いる。

 

「テメーはせいぜい、そのお花を大事に育ててろ。『一人一花育』なんだろ」

 

「……宮城先生も。心の傷、お大事に」

 

 とぼけるように小首を傾げると、花を愛でるように女子生徒の頭を撫で、大川は保健室から去っていく。

 

 皮肉を理解しない様子の女子生徒は宮城に一礼し、両手を添えて扉を閉めた。

 

 大雑把な妹とは似ても似つかない所作に、それでもどこか、美穂の面影を思い起こされる。

 

 ――行くな。

 

 なぜ、あの時……そう言って引き止めなかったのだろう。

 

 失ってから改めて美穂の存在の大きさを知ったところで、もう遅い。

 

 ……遅い?

 

 本音を言わず、嘘もつけないまま、見守ってやろうという建前で結局は逃げただけ。

 

 では美穂は?

 

 生徒会に入ることを自ら選び、合鍵を宮城に突き返した。

 

 本音を言わず、嘘もつけないのは、美穂も同じだ。

 

 ……あー、腹立ってきた。

 

 あの女は勘違いしてやがる、好きとかどうとか、そんな軽いもんじゃない。

 

 先のことなんて知るか、狂おしいほどお前がほしい、それだけ。

 

 分かってない、思い知らせてやりたい、獣じみた欲望が今でもお前を求めてるんだ……!

 

「……くそっ…!!」

 

 怒りと焦燥に駆られ、ボサボサ頭をかきむしり、宮城は保健室を飛び出した。

 

 が、すぐに引き返すと、室内にある鏡の前で髪をワックスで手際よくセットし、ロッカーにある新しい白衣を新調する。

 

 そして再び廊下に出ると、どこにいるかも分からない生徒をさがすために駆けだした。

 

 ……教えてやるよ美穂、俺の本当の気持ちを。

 

 だからどうか、お前こそ本心を聞かせてくれ。

 

 ギミックの利いたリリックなレトリックなんざねーよ。

 

 告白に酷薄な答えが待っていようとも。

 

 ただ、どさくさなドクサ。

 お前には俺しかいないだろ。

 

 ……そう思いたいのは、俺がそうだからだ、美穂。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 真っ先に向かった校庭には思った通り、「一人一花育」に取り組む生徒会と園芸部、それから1年の生徒達がいた。

 

 秋に生徒達がポットに植え付けたパンジーの苗を花壇に植え替える作業で、ジャージ姿の男女が賑わっている。

 

 生徒達の輪に溶け込む美穂に、「先生」が話しかけたら――邪魔だろうか。

 

 そう思って足を止めたが、何度目を凝らしてみても、肝心の美穂の姿はどこにもない。

 

 代わりに発見した坊主頭に歩み寄り、宮城はバスケットボールをつかむように丸い後頭部をわしづかむ。

 

「おいコラ。村瀬」

 

「っ痛でぇえ!! 宮城せん、せっ、アタマ割れますってぇえ!!」

 

「あ~っ、宮城先生だ~。今日はボサボサ頭じゃな~い」

 

 生徒会長とじゃれる保健医に、生徒達はのんきな笑い声を立てた。

 

 それは副会長や書記、園芸部の部長、副部長、部員、1年の女子男子達で、やはり美穂の姿は無い。

 

 宮城が手を離すと、村瀬は頭を抱えるようにうずくまり、泣き声を上げる。

 

「なんつー握力してんスか宮城先生! 俺の脳ミソ飛び散らす気っすか!!」

 

「大袈裟だな。ただの悪力だろ。ま、飛び散ったらパンジーの肥料くらいにはなんだろ」

 

「ちょっ、今あくりょくって違う感じで、違う漢字で言いましたよね!?」

 

「うるせー。わめくな小猿。ところで、……アレはどーした」

 

「アレ? アレって何すか。何なんすか宮城先生」

 

「だからよォ。生徒会でアレは役立ってんのかって聞いてんだ」

 

「アレって美穂すか! やーっぱ心配なん……っでぇえ!! アレはアレです、肥料を運んでますぅううう!!」

 

 再び悲鳴をあげる猿の頭をさらに締め上げると、村瀬は観念して校門の方を指差す。

 

 そこには軽トラックの荷台から大きな積み荷を一人で降ろす、美穂の姿があった。

 

「あんな臭くて重たそうな肥料を、なんで女子にやらせてんだ。テメーが運べよ」

 

「や、そう言ったんスけど、アイツが自分でやるからいいって……いいっててててて」

 

 指に力を込める宮城は、自分が手伝いに向かえば、同じようにそっけなくされるであろうことは見えていた。

 

 美穂は5キロはありそうな袋を両手で抱え、こちらに向かう途中に宮城の姿に気付いても、すぐ目をそらして花壇に運ぶ。

 

 そうして背を向けると、また次の肥料を取りに向かう。

 

 ……あれはこの場に馴染めない美穂が、一人でも平気だと振る舞うためのパフォーマンスだ。

 

「結局、美穂はここでも孤立してんじゃねーか。誰かかまってやんねーと、アイツから絡むタイプじゃねーぞ」

 

「それが園芸部の男子は駄目っす。ビビッて声もかけらんねーみたいで、まさしく草食っすよ。うちの女子が話しかけても向こうがそっけねーし」

 

「そんなもん元からそうだろ、それが美穂だ。人付き合いが下手なだけで、話し続ければそのうち乗るし、そのうち笑顔だって見せる」

 

「笑顔とかその前に会話にならないっすよ。アイツからもこう、少しは歩み寄ってもらわないと」

 

「いきなりは無理だ。まずこちらの存在を認識させ、心を許してもらうまでに時間がかかる。なんでわからねーんだ、面倒くさい女だが、それでも、そ……」

 

 ――そうだ、そんなことは分かっていた。

 

 気まぐれでわがままな黒猫は孤独を愛しながら、相反して人一倍、さみしがり屋なことを。

 

 なのに俺こそ美穂を見捨てた。

 

「……あーあ。でも会話より、身体で話した方が早いっすよね」

 

 力を抜いた宮城から解放され、村瀬は坊主頭をさすりながら話の流れを変えさせる。

 

 この一週間、自分なりに美穂との付き合い方を模索していた村瀬は、突然押し掛けては説教をたれる保健医に、ややうんざりしていた。

 

「宮城先生もそーだったんでしょ。ヤッてからの方が話しやすくなりますよね」

 

「……、何の話だ」

 

「でも意外でしたよ。彼女、すげー濡れるん――…」

 

 言いかけた村瀬は突然胸ぐらを掴まれ、喉仏に当たるこぶしで声と呼吸を遮られた。

 

 眼鏡の奥から村瀬を捕らえる鋭い視線には、教師の戒めというより殺意を感じた。

 

「がっ……! せ…んせ、く るしっ……!!」

 

「……村瀬。当高等学園学則第10章第5条(3) 及び第47条(9)。暗唱しろ」

 

「な…、つか、息が…、できねっ…て……!」

 

 村瀬は顔を真っ赤にしながら必死で呼吸を確保しようと、宙に浮いた爪先を暴れさせる。

 

 息苦しさから両手で白衣の腕をかきむしるが、宮城は構わずさらに続ける。

 

「生徒会長なら校則の暗唱くらい楽勝だろ。早くしねーと死ぬぞ。ああ、死ぬか?」

 

「――っ…!!」

 

 副音声に“殺すぞ”と聞こえた村瀬は、出来るだけ大きく息を吸い込み声を絞り出す。

 

「……っだ、“第10章生徒心得第5条、禁止事項(3)生活上の規則、暴力、飲酒、喫煙、窃盗、……不純異性交…遊”…っ!」

 

「次。処罰指導規定」

 

「…“第47条、生徒処罰指導規定(9)、本園の規則に違反…っ又は、生徒としての本分に反する行為をし…た”…、…あ……っ」

 

「どうした。死にたいか」

 

「……っ“した者で、教育上必要と認めた場合には学園長、が…”っ……」

 

「――“学園長が懲戒することが出来る。懲戒の種類は、退学、停学及び訓告とする”。――つまり村瀬、お前は生徒会長の立場にありながら校則を破ったわけだが、異存はあるか」

 

「なぁっ…、先生…もっ……」

 

「俺がなんだ。どーした。言ってみろ」

 

「これっ…、たいば…つっ、うぐっ……!」

 

 さらに力を込めると、村瀬は苦痛とあせりに顔をしかめる。

 

 喉仏にもう少し圧を加えてやれば、コイツは意識どころか命を落とすだろう。

 

 体罰などと、教師が生徒に与える罰ではない。

 

 男同士のケンカに啖呵を切っただけだ。

 

 ……美穂を、抱いただと?

 

 この小猿が?

 

 この手で、その軽口で、どんな租チンで美穂を汚したと?

 

 冗談だろう、……事実ならこのまま殺してやろうか……!

 

 多くの生徒達は、また宮城と村瀬がじゃれあっていると笑っていた。

 

 だから異様な雰囲気を察して仲裁に入ったのは、2人をよく知る生徒だった。

 

「……、何してんの」

 

「……美穂」

 

 あきれたような口ぶりに、宮城は他人よりも遠い空気を感じた。

 

 思わず腕の力をゆるめ、村瀬をドサリと地面に落とした。

 

「ゲホ…ッ、ゲホッゲハ、…かはッ……!」

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫?」

 

 美穂は宮城に目もくれず、涙目でうずくまる村瀬の背中に手を添えた。

 

 いたわるようなその細い手に、宮城は激しい怒りに駆られた。

 

 ……何でそんなに気やすく村瀬に触る?

 

 まさか、本当にそいつに身体を許したのか……!

 

「美穂。お前、マジで村瀬とヤッたのかよ」

 

 その言葉に、美穂はようやく顔をあげて宮城を見やる。

 

 大きな瞳で宮城と村瀬を見比べると、村瀬の背中に手を置いたまま視線を落とした。

 

「……宮城先生には、関係ないでしょ」

 

 小さな呟きが、宮城の心に冷たく突き刺さる。

 

 ……俺は関係ないだと?

 

 ならもっと嬉しそうに村瀬とイチャついて、俺に引導を渡すがごとくとどめを刺せよ。

 

 そんな無防備に、傷ついた顔をするなよ……!!

 

「美穂。お前、村瀬とナニするために生徒会に入ったのかよ。あぁ?」

 

 美穂の胸ぐらをつかんで無理矢理に立たせる。

 

 問いに答えるでもなく、美穂は唇を閉ざしたまま。

 

 咳き込んでいた村瀬は、女生徒にも容赦のない教師に慌てて宮城を止める。

 

「ゲホッ…、な、何やってんだよ先生! やめろよ!!」

 

「村瀬は黙ってろ。なぁ美穂、どーゆーつもりか言ってみろ」

 

「……どーでもいいでしょ。私のことなんて」

 

「んだとコラ。お前全然分かってねーよ。俺はなぁ、お前のことを本気でっ……」

 

「ちょっ、まずいっすよ宮城先生、皆見てるって!」

 

 何やらもめだす3人の様子に、周囲の生徒はさすがにいぶかしげな顔をしていた。

 

 これ以上騒ぎを大きくしてはまずいと、村瀬は美穂に働きかける。

 

「し、白鳥! そういえばさっきケガしたよな、保健室行ってこいよ!」

 

「ケガ、っていうか、別に……」

 

「ケガだと? どんだけ村瀬と激しいプレイしてんだ。なぁ美穂、言ってみろって」

 

「ちょおっっ宮城先生、だから他に聞かれたらまずいって、……あーもー副会長ーっ!!」

 

 村瀬は副会長どころか、他の生徒に聞こえるように大声で伝言を叫ぶ。

 

「あのさーっ、白鳥がケガしてるから、宮城先生が保健室に連れてくってさー!」

 

「あーっ、さっき転んだところー? 美穂ちゃん早く行ってきなよー!!」

 

 花壇の手入れをしていた副会長や生徒達は、ケガともなれば事情は別だと理解したようだ。

 

 宮城も美穂には保健室に来るなとは言ったが、……ケガなら仕方ない。

 

「来い美穂。色々と色情、聞かせてもらうからな」

 

「……、……」

 

 あごで示唆する宮城に、美穂は躊躇しながらも校舎に向かって歩き出す。

 

 それを見て、村瀬はがっくりと肩を落とした。

 

「は~ぁ。何なんスか2人は…、じれったいのもいいとこっすね」

 

 ‥‥

 あ?

 

「宮城先生もさ、もっとうまく隠すか、ちゃんと素直になってくださいよ。邪魔しようにも、……なーんかバカらしくなってきた」

 

 あまりに軽率な宮城の振る舞いに、村瀬は苦笑いをするしかなかった。

 

 教師が一女生徒に肩入れするあまり、村瀬の空事に感情的になるのは、そのいかがわしい関係を伏せる気がないのか、余裕がないのか。

 

 例えば生徒会長の立場から風紀を取り締まるために学園側に告げたとしても――それが何になるだろうか。

 

「村瀬。テメーにも話があるからな」

 

「や、俺まで抜けらんねーし、……もういいっス。あとはお2人で、よろしくやっちゃってくださいよ」

 

「チッ。植え替え終わったら保健室に来い。あとでシメるからな」

 

 恩知らずな宮城は村瀬に中指を立て、あからさまな怒りを向ける。

 

 あてられた村瀬はやれやれといった感じで、大袈裟に肩をすくませた。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「……何、ここ」

 

 久しぶりに訪れた保健室の入口で、美穂は立ち止って部屋を見渡した。

 

 綺麗好きな宮城は小まめに掃除をし、衛生面にも気遣って室内を清潔に保っていた。

 

 それが今や机の上では書類とノートが散乱し、灰皿には吸い殻が山盛りで、ベッドのシーツは乱れたまま、壁際には埃が溜まっている。

 

「超散らかってるけど。どうしたの」

 

 あまりの変わりように、それまで無言だった美穂は口をきかざるを得なかった。

 

「うるせェ、んなことはどーでも、……確かに散らかってるな……」

 

 美穂に続いて部屋に入った宮城は、この時初めて部屋の惨状に気付く。

 

 ……今まで俺は何をしていた?

 

 頭の中にかかっていた靄が晴れ、切断されていた思考回路が突然つながっていくのを感じる。

 

 ……さっき大勢の生徒の前で、俺は何を言った?

 

 美穂との恋愛遊戯その禁忌を楽しむどころか感情的で慎みのない行動は、完全に我を失っていたとしか思えない。

 

 ――「大人ならもう少し考えて行動してください」と、元生徒会長が言っていた。

 

 ――「もっと先生らしくしてくださいよ」と言った現生徒会長には、恐らく美穂との関係がバレている。

 

 では、美穂には?

 

「もしかして宮城先生、私が合鍵返したの、相当ショックだったとか……」

 

 ‥‥

 バレてるじゃねーか!

 

「お、思いあがるな。んなわけねーだろ」

 

「さっきもなんか、会長の冗談にマジギレしてたし……」

 

「なわけねーだろ、あれはなァ、……って冗談だと? ふざけんな、……冗談だと!?」

 

 椅子に腰かけた瞬間立ち上がり、疑いの目で二度見する宮城に、美穂は思わず吹き出した。

 

「あんな熱くなってる宮城先生、はじめて見た」

 

「村瀬の野郎、この俺をかつぎやがって……!! つーかマジで冗談なんだろうな!!」

 

「なんで。なんで私が、あの会長と寝るの」

 

「おまっ……お前が意味深な態度とるから俺が騙されたんだろ、否定しろよ!!」

 

「だって、皆の前で話すのはよくないって言うから……。なのに宮城先生、超からんでくるし」

 

「だから村瀬のつまんねー戯言のせいで、……くっそ、あの猿あとでしばき倒す!!」

 

 からかわれたと知り床を蹴る宮城は、内心ではホッとしていた。

 

 村瀬と美穂が何もなかったことと、今までと同じように美穂と話せることに。

 

 とりあえず、保健室に美穂を招いた要因から解決することにする。

 

「……まぁいい。美穂、そこ座れ。ケガ見せろ」

 

「いい。転んだだけだもん。何でもない」

 

「あ? じゃあ何でもないのを見せてみろ」

 

「嫌。別にいい」

 

「ナニ意識してんだ。俺は治療してやるって言ってんだ」

 

 膝をさする美穂の「嫌」という拒絶の言葉を、妙に意識しているのは宮城の方だった。

 

 平静を装い、美穂の腕をつかんで椅子に座らせ、足元からジャージを膝までめくらせる。

 

 きめ細かな肌に描かれた赤い傷の文様が実に鮮やかで、「消毒」と言って舌を這わせたい衝動に駆られた。

 

 が、今叶う状況ではない。

 

 それでも宮城は、この瑞々しい肌を村瀬に汚されなかったことに心底安堵していた。

 

 消毒液を浸したガーゼで血を拭う宮城を見つめ、美穂は話を戻す。

 

「宮城先生、私のこと追い出したあと、頭ボサボサで、白衣よれよれで……」

 

「うるせェ。黙ってろ」

 

「他の人の前で、あんなふうに怒鳴ったり……。バレたらまずいって言ったの、宮城先生なのに」

 

「しつこいな。あれは村瀬が、あー……」

 

「あれは? なに。何なの?」

 

「あー……」

 

 気持ちを伝える覚悟だったが、そうやすやすとは口に出来ない。

 

 素直になれない照れくささと、自分だけが相手に溺れているという悔しさがある。

 

 ……そうだ。

 

 俺に答えを求める美穂の方こそ、どうなんだ。

 

 ふと気付くと、宮城がつかむ美穂の脚は小刻みに震えていた。

 

 丸椅子に置かれた腕に手を伸ばすと、触れられたことに驚いた美穂は、それ以前から動揺があったようだ。

 

「……なんだ美穂。脈が速いな」

 

「ちょ、ちょっと、そんなの測らないで」

 

「何うろたえてんだ。お前こそ、俺にナニ期待してんだよ」

 

「違うから。勘違いしないでよ」

 

「はーん。なら試してやるさ」

 

 必要以上に近付いて顔を覗き込むと、美穂はプイッと顔を背ける。

 

 ……この女ァ、もう少しかわいげのある態度をとれよ。

 

 出来ないのなら見せてもらうまで。

 

 ――俺はお前の気持ちが知りたいんだ。

 

 ぐいっとあごをつかんで正面を向かせ、美穂の表情を覆う長い髪を耳にかける。

 

 黒い水晶のように澄んだ瞳は、宮城から逃げるように視線を下げた。

 

「こういうの、もうやめてよ」

 

「声が震えてるぞ。何強がってんだ」

 

「別に。ねぇ、誰か来たら困るんじゃないの」

 

「さぁな。それより唇が乾いてるぞ。緊張してんだろ」

 

「冬だからでしょ。緊張なんて、先生の誤診」

 

「そうかよ。なら俺が潤してやろうか」

 

「やだ、そんな……っや、んぅ……っ!」

 

 美穂の背中を抱き寄せ、小生意気な唇を奪う。

 

 心臓の鼓動を確かめようと左胸に触れると、乳房からは力強い脈動が感じられた。

 

 それでも宮城はなおも美穂の胸を揉みしだく。

 

「どーした。今さらこんなことでドキドキしすぎだろ」

 

「……や…っ、嫌っ、触らないでっ……」

 

「嫌ってわりには本気の抵抗じゃねーな。そんなに俺にどうにかされたいか」

 

「ちがう、からっ…、勘違いしないで、あ、あ……っ」

 

「合鍵返しておきながら、よくここに来られたもんだ。本当は帰ってきたかったんだろ、俺の元に」

 

「そんなんじゃ、あっ、ん……っ…!!」

 

 宮城を拒み続ける美穂に、再びキスを重ねる。

 

 体は意外と素直に応じ、舌を絡めながら熱を持つ吐息は、宮城だけのものではない。

 

「……あ、ふぁ……っ」

 

 かつて2人でさんざん慣らした、心地のいい深い口付け。

 

 キスの情熱が高まろうというところで、宮城は突き放すように美穂を解放した。

 

 すると半開きの唇から舌をのぞかせたまま、美穂は物欲しそうに宮城を見上げる。

 

「なんつーエロい顔してんだ。お前、よっぽど俺が恋しかったんだろ」

 

「ち、ちが……っ…」

 

 宮城が得意げにからかってみせると、美穂は怒ったように顔を真っ赤にさせた。

 

 しかし次には、ふっ、と小さく笑い、宮城の脚の間に指を滑り込ませる。

 

「……宮城先生だって。もう、こんなに興奮してるくせに」

 

 傾き始めた雄自身を引っかく美穂の爪に、衣類の上からでも興奮を高められる。

 

「ッハハ。大胆な淫乱女だな」

 

「なんで硬くしてんの? そんなに、私に触りたかった?」

 

「そりゃお前だろ美穂。見せてみろよ、どんだけ俺に濡れたのかを」

 

「私は別に、濡れてなんかないしっ……」

 

 言いながらも宮城と美穂は抱き合うように密接し、お互いの衣類を脱がしにかかる。

 

 ふざけた攻防がおかしくて、宮城は笑いが込み上げる。

 

 美穂はどうかと目を向けると、はにかむようにいたずらな笑顔を返された。

 

 ‥‥やべ

 今のでまた

 股が硬くなった

 

「わっ、超大きくなった。宮城先生、分かりやすすぎ」

 

 上目遣いで宮城の中枢をなぞる指に誘われ、形状はさらに隆起する。

 

 タマまで

 触られちゃ

 たまんねーし

 

「うるせー。誰のせいだと思ってんだ」

 

「……誰のせい?」

 

 他愛のない駆け引きに胸が躍る。

 

 俺の性は、お前のせい。

 

「ははっ…、んなもん、……もう分かるだろ」

 

「宮城先生、それって……っ」

 

「お前こそどうなんだ。やっぱ下着濡れてんじゃねーか」

 

「ぁっ、あ、っ……私だって、宮城先生のせいで……っ!」

 

 体操着姿にさせた美穂自身へと手を忍ばせると、布越しでも潤いと熱が伝わる。

 

 美穂から白状させてやろうと、宮城は先手を打つ。

 

「お前は素直じゃねーからな。体に直接聞いてやる」

 

「そ…れは、宮城先生もっ……あ、あぁ……っ」

 

「どーした。俺の指でどうにかされたいんだろ。なぁ。言ってみろって」

 

「は…っ、ぁんっ…あっ、宮城せんせぇっ……」

 

「いやらしいところが勃起してきたな。ぬるぬるじゃねーか」

 

「ぁあっ…あっ、待っ…て、嫌ぁっ、…ああぁ……っ!」

 

 嫌とは言いながら、確信に迫ろうと核心を揺さぶる宮城の指に、美穂の体は素直に悶える。

 

 快楽に阻まれ、宮城の中枢に触れていた美穂の攻め手は一時ゆるむ。

 

「ほら。俺にこうされるの好きだろ」

 

「んんっ…ぁ、あっ……そんな、のっ……」

 

「それとも嫌か? どうなんだ、正直に言えよ」

 

「……っ…そんなに、聞きたいのっ……!?」

 

「あー、聞きたいね。お前の口から」

 

 愛撫の手を止め、さもなければ続きはしてやれない、と示す。

 

 すると美穂は仕方なさそうに、宮城に告白をする。

 

「……す、き、…っ」

 

「好き? 今、好きっつったか」

 

「宮城先生、に……えっちなことされるのが、好きっ……!!」

 

 ……そーだな。

 

 今のは尋問の仕方が悪かった。

 

「そーかよ。俺はな、お前のエロい顔も好きなんだ」

 

「も……って、あ、あぁっ、ふぁ、あぁぁっ…!!」

 

「だから美穂のイくとこ見せてくれよ」

 

「や、いやっ、私だけ…なんて、ずるいっ…あっ、やぁっ……いっ…ちゃ、ぁ、あぁぁっ……!!」

 

 熱く腫れあがっていた淫核を甘くゆるやかな快感で導き、一気に昇らせる。

 

 宮城の腕に必死ですがりつき、淫らに果てる愛らしい姿の美穂を胸に抱き締める。

 

 ――ここで区切りをつけたのは、一度仕切り直すため。

 

 今やお互いの熱い体が密着し、持て余す欲望をくすぶらせた状態。

 

 観賞と干渉。

 

 歓楽と陥落。

 

 ――さぁ、どちらが早く口を割る?

 

 宮城が次にどう攻めるかを思案していると、急く呼吸を整える美穂は思い出したようにドアに顔を向ける。

 

「あっ……そうだ、鍵……!」

 

 慌てて立ち上がろうとする美穂に、宮城は腕をつかんで引き止める。

 

「どこ行くんだ。離れるなよ」

 

「でもドアの鍵、閉めないと……っ」

 

「俺とお前が抱き合ってるの見せつけてやればいーだろ」

 

「そんなことしたら、宮城先生がクビになるから!」

 

「スリルがあった方が興奮するだろ、美穂は」

 

「それは宮城先生だけっ……じゃなくて、私は宮城先生を心配して言ってるのに……!」

 

 声を荒げる美穂の言い分はよく分かる。

 

 確かに、教師と生徒が関係を持っていたことが明らかになれば宮城の免職は免れず、美穂とも別れさせられるだろう。

 

 周囲に気付かれそうなヘマを、もうしてなるものか。

 

 美穂をなだめるために、宮城はからかっただけだと優しく言い聞かせる。

 

「あのなァ。この俺がそんなヘマするわけねーだろ」

 

「じゃあ、鍵は……っ」

 

「いつも通りしてあるさ。ここは俺とお前だけの世界だ。誰にも邪魔させねェ」

 

「宮城先生……」

 

 しっかりと腕をつかんで離さない宮城にうながされ、美穂は大人しく椅子に座った。

 

 そして直視を避けるように、頬を染めた表情をうつ向かせる。

 

 対峙を避けていると思われたが、先に意地を折った宮城の隙を突いて、美穂は下を向いたまま話の争点に迫る。

 

「……宮城先生って。私のこと、好きでしょ」

 

 ‥‥

 そうきたか

 

「あぁ? お前が俺を好きなんだろ」

 

「私が聞いてるの。いい加減に、素直になってよ」

 

「じゃあ美穂から言えよ」

 

「嫌。先生から言って」

 

「このっ…また言わせてやろうか、なぁ」

 

 減らず口をどうしてやろうかと美穂の乳房をつかむ宮城の腕を、今度は美穂がそっと触れる。

 

「……っ宮城先生……」

 

「……なんだ」

 

「私が合鍵返したら、他の女の人のところ行くと思ってたのに…。すごい落ち込んでたでしょ」

 

「美穂こそ憧れの先輩はどーしたよ。アイツが本命で、俺なんか遊びじゃねーのかよ」

 

「え、それ気にしてたの? 先輩は、好きだったけど……ただの憧れだって気付いた」

 

「は? 何だとコラ! お前なァ、人がどんだけ悩んだと思ってんだ!」

 

「どんだけって、部屋の片付け忘れるほど?」

 

「分かってんじゃねーか! だから俺は、……あ?」

 

「だから。つまり、どういうこと?」

 

「だからよォ……。よく聞けこの野郎。俺はお前が、……ハハッ」

 

 何だ、このケンカめいた恋語り。

 

 自白を迫られ宮城が笑うと、美穂が怒ったように続ける。

 

「何笑ってんのっ」

 

「いやほら、好きだとか。言うの照れるだろ」

 

「……今、言った……!」

 

「あー。好き好き。超好き」

 

「宮城先生……っ」

 

「うぉっ。おい、何泣いてる」

 

「もっと、ちゃんと言ってよ……」

 

「好きだ、ってか?」

 

「もっと……」

 

「好きだ。好きだ好き好き」

 

「もっと……っ!」

 

「はいはい。好き好き好き好き好き」

 

「……っもう、ばか……!」

 

 言わせておいて、美穂は両手で泣き顔を覆う。

 

 あーあ。

 

 白状しちまった。

 

 観念して頭をかく宮城に、美穂が続ける。

 

「宮城先生が好きって言うと、軽い気がしてたけど……」

 

「お前な…。もう分かったろ。俺は美穂がいないと、どうもダメなんだ」

 

「……うん……」

 

 薄情だというのなら、何度でも言ってやるさ。

 

「愛してんだよ、美穂」

 

「……私も、愛してる」

 

「先輩の次にか?」

 

「先輩より、ずっと……!!」

 

 濡れた瞳に宮城を映し、真っ直ぐな眼差しで想いを告げる美穂。

 

 飛びきりの笑顔に完敗だよ、乾杯。

 

 丁度その時、単調な放課後のチャイムが校内に鳴り響いた。

 

 せっかくの雰囲気を壊されたと、美穂は鼻をすすりながらおかしそうに笑う。

 

「なんか、恥ずかしいね」

 

「そうか? 俺はなんか開き直ったぞ。美穂を愛してるからな」

 

「ちょっ……やだ、あんまり軽々しく言わないで」

 

「その割に嬉しそうだな。可愛いなお前、そーゆーとこも好きだぞ」

 

 直接的な言葉に照れる美穂に、調子に乗った宮城が甘い言葉を連呼して顔を近付けると。

 

「だ、だからやめてよっ、もぉっ」

 

 痛いほど胸を数回叩かれ、せっかくのキスのタイミングを妨害される。

 

 ムードを壊すのはむしろ美穂だ、と言ってやろうとした宮城より先に、美穂の言葉が続く。

 

「……私ずっと、宮城先生に会いにここへ来てた」

 

 美穂はぐすぐすと鼻をすする。

 

「でも、この関係って何だろうって……あの生徒会長が、付き合った先に結婚があるって言った時、余計に思った」

 

「あー…、それはだな」

 

「いいの。多分、宮城先生との関係を、分かりやすい形にしたかったんだと思う」

 

 大人なら有耶無耶にする、ほどよく都合のいい恋愛関係。

 

 ごまかすのを嫌うのは子供、というわけではなく、それだけ美穂が真剣だったともとれる。

 

「それで? 生徒会はどーすんだ」

 

 恋愛と学校生活、その両天秤。

 

 宮城が尋ねると、美穂は首を傾げて比重を測り、選択する。

 

「……宮城先生と生徒会、両方がんばりたい」

 

「ハハッ。欲張りな奴。それでこそ俺の惚れた女だ」

 

「も、もぉっ……」

 

 よしよしと頭を撫でる宮城に、美穂はまた茹であがったように顔を赤くする。

 

 そんな美穂を見て、宮城は脱ぎ散らかした白衣のポケットからキーケースを取り出した。

 

 そしてその中の1つを、美穂に手渡す。

 

「えっ、宮城先生、これ……」

 

「くれてやるよ。特別な鍵だからな、大切にしろよ」

 

「もしかして、宮城先生の家の……合鍵……!?」

 

「保健室はもうマズイ。次からは授業サボるな、俺が怒られる。校内じゃまずいだろ」

 

「校外なら、いいんだ……」

 

「だから。もう他の男の所いくな」

 

「行ってないよ……」

 

「俺だけにしろ。……俺もそーするから」

 

「うん……」

 

「俺の女になれよ。美穂」

 

「うん……っ!」

 

 嬉しそうに鍵を握り締め、美穂は宮城の胸に顔を埋めた。

 

 宮城は美穂を慈しむように、両手でしっかりと抱き締める。

 

 だが胸にあたる美穂のやわらかな黒髪が、どうも宮城の愛欲をくすぐって仕方ない。

 

「あー、美穂」

 

「何……?」

 

「あのな」

 

「何」

 

「もう挿れていいか?」

 

「な……っ!!」

 

 待ちあぐねた宮城の無粋な問いに、美穂は驚いたように顔を上げた。

 

 そしてヘソを曲げるかと思われた美穂は、腰に手を当て不満げな様子でふくれる。

 

「そんなこと聞かないで。早く、してよ……っ」

 

 わざと怒った様子でねだる美穂に、おかげで宮城は、笑いながらキスをする羽目になった。

 

 口付けを交わして美穂とベッドになだれこみ、その後は、もう時間など関係なかった。

 

 何度もキスをし、何度も抱き合い、何度もお互いの体を確かめ合って、2人で愛を噛みしめる。

 

「……、美穂」

 

「んっ……?」

 

「俺な。美穂がすげー好きだから」

 

「私も、宮城先生が好き。大好き……!」

 合い言葉は、愛言葉。

 

 エロスもイイけど、ロマンスも気持ちイイ。